リモートワークの日米比較
最初に西村氏は、リモートワークにおけるアメリカと日本の比較を紹介した。
アメリカで人事関係の調査を長年発表しているNPO団体によると、アメリカではリモートワークを導入している企業数が1996年の約20%から、2016年には約60%まで拡大しているという。さらに直近4年間では、ほとんど出社しない“フルリモートワーク”を実践している層が急速に増えている。
アメリカの企業では、求職者の中にも、フルリモート可な企業でなければ働かないと考える層が出てきている。ジョブディスクリプションの「勤務地」項目に「リモート」と入っていることが重視されるのだ。さらに最近では、フルリモート専門のジョブ・ポスティングサイトが英語圏では立ち上がっていると西村氏は説明する。
一方日本では、政府が「働き方改革」実現のために、リモートワークをはじめとする柔軟な働き方を推進している。その成果もあり、夕方職場を出て子供を迎えに行き、夜自宅で仕事をするといった働き方を許容する企業も出てきているのだ。実際、国土交通省による平成30年度の調査では、「勤務先にテレワーク制度が導入されている」と答えた割合が19.8%という結果だった。ただ、普及してきているとはいえ、1996年当時のアメリカ程度の水準ともいえる。西村氏は、日本が後進的だとは一概にはいえないと前置きしつつも、日米には差があると語る。
続いて、リモートワークと生産性の関係について紹介した。スタンフォード大学が中国のオンライン旅行会社シートリップ(現、トリップドットコム・グループ)と共同で2014年に16,000人を対象に大規模調査を行ったところ、リモートワークによって生産性が13%向上したという結果だった。これがすべていい結果だというわけではない。向上した13%のうち、9ポイントは病欠が減少したことによる改善、3ポイントは通勤時間がなくなった代わりに労働時間が伸びたことによる改善なのだという。
この結果は、リモートワークは労働者にとってプラスだといえるものではないかもしれないが、この調査は別の興味深い結果も示している。リモートワークを導入することで、50%も離職率が低下しているのだ。西村氏は、離職率の改善効果は企業にとってはものすごく大きなことだと話した。
一方で、アメリカの一部のテック企業では揺り戻しのような現象が起きたことも紹介した。自社プロジェクトで新しいものを作ろうとすると、オフラインでの密なコミュニケーションが大切なのではないかという考え方も出ているのだという。