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デロイト トーマツ グループ、2023年版「内部通報制度の整備状況に関する調査」を公開

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 デロイト トーマツ グループは、2023年11月から12月にかけて実施した「内部通報制度の整備状況に関する調査」の結果をレポートにまとめ、PDFデータを公開した。

 同調査は、日本における組織の内部通報制度の現状を明らかにし、その有効性向上、高度化に資することを目的とする。過去にデロイト トーマツ グループ主催のセミナーに申し込みした人のうち、経営企画/総務/法務/内部監査/国際管理の各部門に所属の人を対象に、622件の有効回答を得たという。

日本企業の内部通報制度の状況

 過去すべての調査において、9割超の組織が社内窓口を設置済みであり、制度自体はほぼすべての組織で取り組み済みとなっている。しかしその中身には改善の余地があるようだと同社はみている。

認知度

 従業員の内部通報制度の認知度は参考平均値で83%となった。通報者が通報するに至るまでには少なくとも3つのハードルがあると考えられるという。制度を知っている、制度(会社)を信用できる、通報者にメリットがあるといった段階を経てようやく通報に至るという考え方だとしている。

 調査からは、第1のハードル“制度を知っている”=認知度にさえまだ改善の余地があることがわかる。通報制度が機能しているかを評価する指標として通報受信件数が着目されることが多いようだが、認知度に注目するほうが合理的だという。

グラフ1
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情報開示

 認知度は、組織が従業員に対して制度をどれだけ開示しているかによって大きく影響を受ける指標と考えられる。誰がどのようにして対応するのか、そしてその対応結果がどういったものだったのか、それらをつまびらかにすることによっておのずと認知度も高まってくるものだと思われるが、「どのようにして対応するのか」および「対応結果がどういったものだったのか」というところまで情報開示している組織はまだまだ少ないという結果が得られた。

グラフ2
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不正を認知したときに内部通報をするかしないか

 第2のハードル「制度(会社)を信用できる」については、人間同士の信頼関係に通ずるものがありそうだ。様々な言動の積み重ねや経験によって少しずつ積み上げられていくものが信頼であると考えられるという。

 不正を知った、あるいは加担してしまった場合に、自組織の内部通報制度には不安があるため通報しないと回答した割合は、全体で11%だった。内部通報制度の整備や担当経験がなく縁遠い部署にしかいたことがないという人の「不安があるため通報しない」という回答は26%、内部通報制度の体制についてある程度の知見があるという人の同回答は18%となった。内部通報制度の構築あるいは運用に参加した経験があるという人であっても同回答が5%あった。

グラフ3
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 また、不安があるため通報しないと回答したその理由については、内部通報制度の整備や担当経験がなく縁遠い部署にしかいたことがないという人では「通報実績を見たことがない」29%、「報復が怖い」29%、「対応品質に不安がある」22%の順となった。この不安には第1のハードルである「情報開示」が起因していることが推測されるという。

 次に、内部通報制度の体制についてある程度の知見があるという人の回答は「報復が怖い」25%、「対応品質に不安がある」23%の順になっている。最後に、内部通報制度の構築あるいは運用に参加した経験があるという人にさえも、不安があるため通報しない理由として「報復が怖い」の回答が30%もあった。

グラフ4
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 内部通報制度をよく知っている者ほど組織からの報復を恐れるというこの状況に内部通報制度単体の機能改善で対応することは不可能である。経営者もしくは経営職層が“報復など絶対ない、組織は本気で不正と戦おうとしている、実績がそれを証明しているはずだ”と示し続けることでしか改善できないのではと同社はみている。

 たとえば、通報の受付チャネル(電話や封書といった通報の受信手段のこと)が貧弱という点を理由に挙げる回答は、内部通報制度の整備や担当経験がなく縁遠い部署にしかいたことがないという人でさえも2%であり、内部通報制度における表面的な改善施策にそれほど高い効果が期待できないことを示している。

 経営者あるいは経営職層が従業員に対して本気の度合いを示すためには、従前から行われているコンプライアンス推進活動を継続して地道に実施し続けることの効果が高そうだという。代表的なコンプライアンス推進活動を経験したことがあるという数が少ないほど「不安があるため通報しない」の比率が高く、経験した数が多いほど同回答の比率は低くなっている。

グラフ5
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メリット

 第3のハードル“通報者にメリットがある”=メリットの代表的なものにリニエンシー制度や報奨制度がある。「導入を検討していない」はいずれの制度でも過半数となった。「導入済み」および「導入予定」を合わせると社内リニエンシー制度は10%台、報奨制度では1%台に。社内リニエンシー制度については「人事規程などで規定される賞罰を適用する」というフリーコメントも見受けられ、新たに制度を設けず既存の仕組みを活用している組織もあるようだ。

 内部通報制度は、自組織の不正を行政への通報やソーシャルメディア、マスメディアなど外部への公開に至る前に対処することを目的とする組織にとっての重要な制度。しかし、組織だけでなく通報者自身にも利益がなければ通報する人は増えないだろうとしている。

 また、近年ソーシャルメディアに組織の内情を暴露する投稿がみられるようになった。インフルエンサーによる拡散を経てマスメディアに取り上げられる事例も発生しており、スマートフォンでの録音、録画も容易にできるようになっている。幼いころからソーシャルメディアに親しんだ世代が社会人の多くを占めるようになると、メリットがなければ通報などしないという傾向がより強くなっていくのではないだろうかと同社はみている。

グラフ6
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通報受信数と不正の比率

 直近1年間の国内通報の受信数が10件以下である比率は66%、海外通報では77%であり、多くの組織が多数の通報を受信しているわけではなく、この傾向は調査開始時からほぼ変わっていないという。また受信した通報のうち不正の告発が1割未満であった比率(「把握していない」の回答を除外)は、国内通報で82%、海外通報で78%だった。

グラフ7
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 通報を数多く受信する努力をしても、通報数に比例した不正の告発を受信できるわけではない。通報のほとんどは労務問題や人間関係の悪化にともなう不満の解消を主張するものになる。そういった問題は組織の風土を徐々に劣化させていき、放置することは適切ではない。しかし、それらの問題の多くは公益通報対応体制で適切に低減もしくは解消していけるものでもないという。公益通報対応体制は通報者の主張が事実か否かを確認して対処することによって社会を救う(社会を救う姿勢を示すことで組織も救う)制度なのであって、通報者の悩みや苦しみを低減する制度ではないからだとしている。

 内部通報の件数が世の中の平均に達しているかいないかといった点を注視するのではなく、内部通報制度の目的を公益に資する対象に絞り、冒頭で触れた“内部通報制度の認知度”を高めたうえで、従業員に対してアンケートを実施し「不安はないが通報しない」その理由として「上司や同僚に相談できるから」の回答を増やしていく努力をすべきではないかと考えるという。

国内の内部通報制度に関する法令

 「内部通報窓口がある」と回答した組織が大多数ではあるが、11条指針対応は従業員規模300名超の組織に対しては義務として求められ、それ以下の組織に対しても努力義務のあることが明記されている。

グラフ8
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 しかし、従業員規模301名以上の組織でさえも、内部通報制度があるかという質問に「いいえ」の回答が散見される。アンケート調査には回答者の認識による一定の誤差が生じるものだと考えられるが、11条指針は窓口を従業員に周知することも求めている。「わからない」の回答および回答者の誤解がある前提での「いいえ」の場合にも、その周知に問題がある可能性があるため、やはり看過できないという。

グラフ9
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 改正公益通報者保護法に「対応済み」あるいは「対応予定」と回答した組織に対して、11条指針への対応を問う質問では、従業員規模301名~500名の組織で、その公表を「知らない」が4%、5,001名~10,000名の組織では同回答が21%だった。何に基づいて改正公益通報者保護法に対応した(あるいは対応予定)と捉えているのかに疑問が残る状況となっている。

独立性の確保

 外部窓口に顧問弁護士が関与する割合、および重篤な通報対応の意思決定機関に社外役員が関与しない割合は、同調査が始まってから大きな変化がないという。外部窓口が「顧問弁護士が外部窓口である」38%、「顧問弁護士との組み合わせである」9%、重篤な通報対応の意思決定機関が「社外役員を含まない取締役会である」3%、「社外役員を含まない委員会組織である」40%となった。

グラフ10
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 また、国内通報に対応する従事者に顧問弁護士が含まれる組織は155、海外通報に対応する従事者に顧問弁護士が含まれる組織が53あった。

グラフ11
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 独立性の確保は11条指針が求めるものであり、その必要性は理解しているものの内部通報制度対応に適した人材の確保が容易ではないという課題があるのではないかと推測される。その傾向は文化、習慣あるいは法規制に関する一定の知識がすでに共有されている国内通報に対してより顕著に現れているものと推察するという。

 独立性の確保を困難にする要因の一つとして、組織をよく知る顧問弁護士や社内役員で通報対応をするほうがより実務的であるという判断がなされている可能性もあると考えられる。不当評価、労務問題、人権侵害といった通報者自身の被害軽減を訴求する通報と、組織外に被害者が生じる不祥事を告発する通報(いわゆる公益通報)とを峻別せずに受信している組織は多く、通報の性質別に複数の窓口と複数の担当部署を設置している組織は25%に過ぎないとしている。

グラフ12
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