最大化したい成果=ゲイン、最小化したい成果=ペイン
クリステンセン教授が提唱するジョブ理論とそれをベースにした成果指向型イノベーションは、新しい価値提案をデザインする上で、既存のプロダクトやサービスという枠組みからの制約を外す一方で、顧客の望ましい成果の中で新しいアイディアを創出するという制約を課します。例えば、芝刈り機メーカーは、「庭をきれいに保つ」というジョブを理解することによって、人工芝という新しいプロダクトを容易に思いつくでしょう。同様に、タニタは「健康をはかる」という顧客の視点から多くのプロダクトやサービスを市場投入してきました。
さて、価値提案キャンバスは顧客プロファイルと価値マップという2つの領域から構成されます。しばしば取り上げられるミルクシェイクの事例をシンプルな価値提案キャンバスに落とし込むと図のようになるでしょう(図1)。
前回、成果ステートメントの記述形式をご説明しましたが、価値提案キャンバスにおいては最大化したい成果がゲインであり、最小化したい成果がペインに相当します。例えば、「暇をつぶせる時間を最大化する」という成果ステートメントから「暇をつぶせる時間」というゲイン、「車内や洋服が汚れる可能性を最小化する」から「車内や洋服が汚れる可能性」というペインが得られます。「面倒くさい」というようなペインの記述方法は曖昧でお薦めできません。顧客インタビューでは、「それは(成果ステートメント)という意味ですか?」というように置き換えて質問してあげることです。
実際には、望ましい成果(ペインとゲイン)は100近くになることがあります。また、ペインはゲインよりも圧倒的に多い(3~5倍)ことに気付くでしょう。人間は、日常的なジョブを行う上での不安、不満、不便(いわゆる3つの不)の方が多いのです。したがって、顧客インタビュー時には、ペインを引き起こす原因(情報やスキルの不足、うっかりミスなど)を上手に聞き出すことが重要です。