4つの利益レバーとプライシング・メカニズム
財務構造の改善に日々取り組んでいない企業はいないでしょう。オペレーション部門のトップはコスト削減に頭を悩まし、セールス部門のトップは販売数量を増やそうと檄を飛ばしていることと思われます。ところが、プロダクトやサービスの価格(プライシング)に関して多くの労力がかけられることは意外に少ないのが現実ではないでしょうか?
収益性を改善するために使うことができるレバーは大きく4つあります。それは、固定コスト、変動コスト、販売数量、価格です。ここに、各々のレバーを1%改善することによる収益性への影響に対する調査結果(米国)があります(図1)。注1)
業務への影響を与えることなく固定コストを1%削減することに成功した企業は、2.45%の収益向上に結び付くというように読み取ってください。一目瞭然ですが、価格のレバーが最も収益性に大きな影響を与えていることが分かります。実際には、業界によって改善率には幅があります。一般的に利鞘が低い小売業においては、1%の価格を上げることによって何と20%近くの収益性改善に結びついているようです。
もちろん、単純な値上げは販売数量の低下を招くことになりかねません。そこで工夫する余地があるのが、プライシング・メカニズムです。このメカニズムは大きく固定価格、差別価格、市場価格に分類することができます(図2)。
固定価格 – これには、レストランや通販などのリストプライス、前回のテーマとして取り上げたサブスクリプション、ガスや水道のような従量制による課金などがあります。
差別価格 – 3つほど代表的な差別価格を紹介しましょう。顧客特性ベースというのは、顧客のリスク(例.保険やローン)、人口動態特性(例.女性、シニア、学生向け)、取引量や取引履歴によるプライシング方法です。バージョニングとは、性能(例.マイクロプロセッサー)、品質(例.ガソリン)、時間(例.通貨や株価情報)、媒体(例.新書、文庫本、電子書籍)などのバージョンによるプライシング方法です。バンドリングとは、複数のプロダクトやサービスを束にすることによるプライシング方法です。マクドナルドのバリューセット、マイクロソフトのオフィスはその典型です。
市場価格 – これは、市場における需給バランスによって価格が形成されることを意味します。交渉(例.B2Bの大きな取引)、イールドマネジメント(例.ホテルや飛行機チケット)、オークションやリバースオークションなどがこの典型です。
この中で、最も多くのビジネスにおいて利用価値があるのは差別価格でしょう。上手くデザインされた差別価格は、販売数量を落とすことなく利益の向上に貢献することもありますので、色々なパターンを実験してみる価値がありそうです。もっとも、差別価格は顧客側からみて公平であると感じてもらえることが重要です。また、プライシングは、業界や地域の慣習に従うこともあるため、その慣習を一度疑ってみることも必要でしょう。