デザインの対象領域は「人とモノ」「人と人」「人と社会の関わり方そのもの」へ
人とモノ、人と人、人と社会の関わり方そのものが、デザインの対象になっている。
デザインの対象領域の広がりについて、冒頭挨拶をつとめた東京大学生産技術研究所所長の藤井 輝夫氏はこう語る。
東京大学生産技術研究所が英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)と共同で設立する「デザインラボ」は、デザインの対象領域を幅広く捉え、デザインアプローチで社会における新しい価値創造や、そのための場づくりや人材育成に取り組むことを目標に掲げた組織だ。生産技術研究所の「ものづくり」の力と、英国RCAが実践してきたデザイン教育の強みを掛け合わせることで、未来を具現化するデザインプロジェクト推進と、高いレベルのデザインエンジニアリング教育の実践を目指すと、設立趣旨には記載されている。
技術開発のみでは“行き場を失ってしまう”時代にデザインがもたらす役割と意味
本セッション「デザインの新しい役割」では、大学や企業内でデザインアプローチを活用し、イノベーション創出に取り組む3名が登壇。
まず、東京大学生産技術研究所教授の野城氏から本セッションの趣旨について語られた。「デザインラボ」を設立するに至ったきっかけについて、従来のエンジニア教育の問題点を指摘しつつ、以下のように語る。
今までは、新しい技術を発明すればそれがイノベーションに結びつくと考えられていたんです。でも、今は違う。たとえ20年かけて技術開発をしても、それを凌駕する新技術がすぐに登場したり、社会のニーズに即していなかったりと、技術が行き場を失ってしまう例が多々あります。技術だけではなく、デザインの力を活用することで、イノベーション創出を目指します。(野城氏)
イノベーション創出の枠組みの中には「機能創造」と「意味創造」の2つが存在すると、野城氏は図を交えながら解説する。両者の違いを説明するために例示されたのは、ソニーが開発したウォークマンだ。
約40年前、野城氏が学生の頃にウォークマンは世の中に登場した。当時の衝撃を次のように振り返る
技術の役割は、新しい機能をつくることだと思っていたんです。でも、ウォークマンが「音楽を気軽に持ち運ぶ」という新たな意味と文化をつくったことで、それは違うと。デザインの力を使えば、機能だけではなく、「意味を創造できる」と思ったんです。(野城氏)
上記の図の中で、デザインは機能創造と意味創造をつなぐ役割を持つと示されている。これからの時代は科学者や技術者が機能を創造するだけではなく、「インタープリター(洞察者)」と呼ばれる、全く異なる分野の専門分野を持つものの知見が加わることで、意味が創造されるというわけだ。