既に経営書のクラシックとなっている『キャズム』の著者である米国のコンサルタント、ジェフリー・ムーア氏の最新作『ゾーンマネジメント:破壊的変化の中で生き残る策と手順』(原題:Zone to Win)を翻訳する機会をいただいた。私にとって、同氏の著作を翻訳するのは、『ライフサイクルイノベーション』(原題:Dealing with Darwin)、『エスケープベロシティ』に次いで3回目となる。
訳者として言うのもおこがましいが、今回の著作も同氏の今までの著作に負けず劣らず刺激的な本である。本稿で内容を簡単に紹介したい。
前著『エスケープベロシティ』のプレイブックとして
『ゾーンマネジメント』は前作『エスケープベロシティ』で提言された考え方をより詳細な手順レベルにまで落とし込んだプレイブック(指南書)という位置づけである。ゆえに、『エスケープベロシティ』と併せてお読みいただくことをお勧めしたい(言うまでもなく、『キャズム』を含むムーア氏の他の著作も未読の方は是非ご一読いただきたいが)。
『エスケープベロシティ』の重要なテーマは、地位を確立した既存企業が、社内の抵抗力に打ち勝ってイノベーションを成功させるにはどうすべきかということだった。ロケットが脱出速度(エスケープベロシティ)を達成しなければ地球の重力に負けて墜落してしまうように、社内の抵抗力を地球の重力にたとえて、その抵抗力に打ち勝つ強力なイノベーション戦略がなければならないことを示したのである。
本書も基本的には同じテーマを扱っているが、新規テクノロジーによる破壊的変化にどう対応すべきかという点によりフォーカスが置かれている。IT業界に限らずあらゆる業界で破壊的変化が訪れている現在を見れば、このような考え方の重要性がますます高まっていることは言うまでもない。実際、長期にわたって成功し、確固たる地位を築いた企業が業界の破壊的変化に対応できずに凋落していく事例は枚挙に暇がない。デジタルカメラという破壊的変化に対応できず破綻したコダックがその典型例だ。
企業は破壊的変化にどう対応すべきか?「破壊的変化の波に襲われたら自らも破壊的に変化すればよい」と言った絵空事の提言を行なうコンサルタントをムーア氏は厳しく批判する。それは、既存企業にとっての重要な資産である顧客ベース、ブランド・イメージ、確立したエコシステムなどを捨てることになるからだ。かと言って、業界の破壊的変化に耳を塞ぎ、現状維持を続けていくだけであれば、新参プレーヤーに市場を侵食されるだけである。
結局のところ、問題は、如何にして既存事業の優位性を維持しつつ、新たな市場機会を活用するかというポートフォリオ管理に帰着する。