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SERENDIP書籍ダイジェスト

洞察や創造につながる「四つの知識」の融合とは

Vol.1

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 本書では、文化や歴史、人々の行動や感情、経験などの文脈で物事を捉え、意思決定や洞察に結びつける実践的な知の技法を「センスメイキング」と名づけ解説。そのポイントの一つは、定量分析や数理モデルのみの「薄いデータ」ではなく、定性的な、事実のさまざまな文脈を含む「厚いデータ」をもとに思考することである。著者はReDアソシエーツ創業者、同社ニューヨーク支社ディレクター。同社は人間科学を基盤とした戦略コンサルティング会社として、文化人類学、社会学、歴史学、哲学の専門家を揃えている。


現実の世界は数字やモデルだけで捉えることはできない

 今や人々は、STEM(科学・技術・工学・数学)や「ビッグデータ」からの抽象化など理系の知識一辺倒になっているため、現実を説明するほかの枠組みが絶滅寸前といってもおかしくない状況にある。

 人間のあらゆる行動には、先の読めない変化が付き物なのだが、理系に固執していると、こうした変化に対して鈍感になり、定性的な情報から意味を汲み取る生来の能力を衰えさせることになる。世の中を数字やモデルだけで捉えるのをやめて、真実の姿として捉えるべきだ。

 最近は、アマゾンやグーグルをはじめ、数え切れないほどのアプリやベンチャー企業がビッグデータを活用している話題で持ち切りだ。我々は、データが多ければ気づきやひらめきも多くなると信じ切っている。フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグが、人々のビッグデータ中毒を見逃すはずもなく、先ごろ投資家向けに、「世界のありとあらゆる事象を網羅する決定的なモデル」を構築すると語っている。

 こうした風潮の中で、筆者はどうしても届けたいメッセージがある。それは、文化的知識(人文科学的な思考で育まれた知)の価値は間違いなくあるということだ。

 筆者の言うセンスメイキングは、人文科学に根ざした実践的な知の技法である。アルゴリズム思考(※数理的・分析的に手順を踏んで考えること)の正反対の概念と捉えてもいいだろう。アルゴリズム思考は、固有性を削ぎ落とされた情報が集まった無機質な空間に存在する。

 例えばセンスメイキングの立場で部屋を見るとは、どういうことか。個々の物が詰まった空間と捉えるのではなく、文化的現実を構成する構造体と捉えることが大切だ。アルゴリズム思考では、香水の瓶には何ミリグラムの液体が入っているとか、ペンはプラスチックに金属を組み合わせてつくられているといった視点で定義付けをする。

 一方、センスメイキングでは、あらゆるものを相対的な関係性で捉える。だから香水は、口紅やハイヒール、テキストメッセージと同じく、デートという世界に属する用品になる。ペンは、ワープロや紙や本とともに、書き物の世界に属することになる。ペンも香水もハンマーもワープロも、生活に関わるあらゆるものは、相互に関係がある。

 筆者は、センスメイキングのデータを「厚いデータ」と呼ぶようにしている。厚いデータは、単なる事実の羅列ではなく、事実の「文脈(前後関係・状況)」を捉えている。例えば「40グラムのリンゴと1グラムの蜂蜜」というのは薄いデータだ。だが、「ユダヤ教の新年祭にリンゴを蜂蜜につけて食する習慣がある」となったとたん、これは厚いデータに変わる。

 我々がめざしているのは、物事の意味を見出すことだ。複雑な世界の中で、センスメイキングは本当に重要なものを見極める力を与えてくれるのである。

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「厚いデータ」で成功した投資家ジョージ・ソロス

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