10年以上アカデミアで研究してきた杉﨑氏がビジネスサイドに移った理由
──杉﨑先生のこれまでの経歴、量子技術とどのように関わってきたのかを教えていただけますか。
杉﨑研司氏(以下、杉﨑):元々は化学をバックグラウンドにもち、大阪市立大学(現・大阪公立大学)の理学部化学科を卒業後、研究も化学の分野に進みました。そんななかで2005年頃、当時在籍していた研究室が量子情報の実験を始めて、私自身は直接関わらなかったものの、関連の話を聞く機会が増えていきました。
私が量子コンピュータの研究を始めたのは、2011年です。その前年、私も取り組んでいた理論計算を、量子コンピュータを使って実行するという論文にたまたま出合いました。その後の2011年の2月から4月、これもたまたまなのですが、その論文を書いたハーバード大学のアラン・アスプル=グジック先生の研究室で勉強する機会をいただきました。量子コンピュータの化学への応用について、最初に取り組み始めた方です。
2ヵ月間の滞在を終えて日本に帰国し、自分の研究でも量子コンピュータを使えないかと考え、研究に本格的に取り組み始めました。博士研究員から特任助教、特任講師と大阪市立大学で過ごし、2023年4月から慶應義塾大学の理工学研究科の特任准教授を務め、今年4月にデロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)に参画しています。
研究を始めた当初は、そもそも何が技術的に難しくて、何ができるかもわからない状況でした。世界でも量子コンピュータの化学応用研究をしていたのが、世界で10ヵ所あるかどうかといった時代です。もちろん教科書もありません。
そんななかでも論文を書かないわけにはいかないので、それまでに取り組んでいた化学の研究を続けながら、並行して量子コンピュータについて勉強し、どんな活用方法がありそうかを模索しました。2017年頃からは、量子アルゴリズムや量子コンピュータをメインのテーマに研究を続けています。
──ご紹介いただいたとおり今年4月にアカデミアの世界からビジネスの世界へ移られたわけですが、どのような理由があったのでしょうか。
杉﨑:大阪市立大学在籍時は、量子アルゴリズムの理論の研究をしていたのは私一人という環境でした。その後、慶應義塾大学に移ってからは、主に産学連携の研究拠点を立ち上げるプロジェクトに携わりました。そこで企業に所属する方々との交流が増えた結果、量子コンピュータを使って解決したい課題について、企業がとても具体的に考えていることに気づいたのです。
基礎研究に従事する一方で、やはり応用研究、実社会での課題解決に貢献したいという思いがあったので、産業界に飛び込むことで、より社会に近い場所で研究に取り組めたらと考え、今回の参画を決めました。日本の量子コンピュータ研究を盛り上げるのに一役買いたいという思いもあります。
