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イノベーションの切札は「守りと攻め」の二刀流

Vol.4

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 書籍ダイジェストサービスSERENDIP(セレンディップ)は、予測不能な今、変化の兆しをとらえ視野を広げるためのサービスとして、幅広いジャンルから厳選した書籍を10分で読めるダイジェストにして配信。日本語の書籍のほか、まだ日本では翻訳出版されていない海外の話題書も日本語ダイジェストで提供しています。  本連載では、SERENDIPのバックナンバーから、Biz/Zine読者の関心の高そうなダイジェストを転載していきます。  今回ご紹介するダイジェストは『両利きの経営』。かつて世界最大手の写真用品メーカーだったコダックに代表されるように、技術革新や破壊的イノベーションに対応できずに衰退、破綻に至った大企業は少なくありません。その一方で、富士フイルムのように新規事業や多角化に成功した成熟企業もあります。その違いはどこにあるのでしょうか。キーワードは「両利き」です。

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 本書は、世界最先端のイノベーション理論として欧米で主流になっている「両利きの経営」の、初の体系的解説書である。「両利き(ambidexterity)」とは、知の深化(exploitation)と探索(exploration)を同時にバランスよく行うこと。企業経営では、自社の既存の事業(成熟事業)の漸進的な改善・改良を行いながら、その強みを生かしつつもまったく新しい領域のイノベーション(新興事業)に取り組む戦略になる。本書では、その「両利きの経営」を成功させるためにリーダーが何をどのようにすればいいのかを、失敗例も含む膨大な事例とともに論じている。著者のチャールズ・A・オライリー氏はスタンフォード大学経営大学院教授でリーダーシップ、組織文化、人事マネジメント、イノベーションなどが専門。マイケル・L・タッシュマン氏は、ハーバード・ビジネススクール教授で技術経営、リーダーシップ、組織変革などを専門とする。


既存事業を“深化”しながら新規事業を“探索”する「両利きの経営」

 今日の世界では、変化の流れを逃したり、破壊的イノベーションに対応し損なったりすれば、企業はすぐに倒産に追い込まれてしまう。リーダーはこうした脅威をどう捉えるべきなのか。破壊を免れるためにどうすればよいのか。その答えは一つでないにせよ、少なくとも、業界や組織が破壊的変化に直面したときにリーダーやマネジャーが参考にできる、確かな実用的知見がある。

 すなわち、リーダーは、成熟事業で成功する組織を設計すると同時に、新興事業でも競争しなくてはならない。

 成熟事業の成功要因は漸進型の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行だが、新興事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの耐性だ。その両方ができる組織能力を「両利きの経営」と私たちは呼んでいる。

 GKNは1759年創業の英国の航空宇宙関連の会社だ。炭鉱業からスタートし、1815年には英国最大手の鉄鉱石生産会社になっている。1864年に締め具(釘、ネジ、ボルト)の生産を始め、1902年には同製品で世界最大のメーカーとなった。その後、GKNは金属鍛造の専門知識を活かして、1920年に自動車部品、さらに航空機部品の生産を開始している。今日では、航空宇宙、自動車、冶金業界で競争力のある年商90億ドル、従業員数5万人を超える企業となった。

 GKNはダイナミック・ケイパビリティ、すなわち「企業が急速に変化する環境に対応するために、内外のコンピテンシー(行動特性)を統合、構築、再構成する能力」をうまく活用することができた。成熟事業における既存の資産と組織能力を有効活用し、必要に応じて、それを新しい強みにつくり替えることに前向きで、かつ、実際にやってのける「両利きの経営」のできるリーダーが存在したからである。

 変化に直面した組織が生き残るには、リーダーは相矛盾する二つの重要なことをやってのけなくてはならない。それは、継続的な漸進型のイノベーションや変革を通じて、既存の資産と組織能力を「深化」すること。そして、既存の資産と組織能力が新規参入者に対する競争優位となりうる新しい市場や技術を「探索」することだ。

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