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中国は半導体と宇宙開発で何を狙っているのか──『「中国製造2025」の衝撃』ダイジェスト

Vol.6

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盗聴不可能な暗号を使う量子通信衛星の世界初の打ち上げに成功

 2016年8月16日、新華網(※中国の国営通信社である新華社のネットメディア)は、量子通信衛星「墨子(ぼくし)号」の打ち上げに成功したと伝えた。「量子通信衛星」というのは何か? ざっくりと言ってしまえば「量子力学の原理を利用して、他者には解読不可能な暗号を用いた通信システムを構築するための人工衛星である」とでも言おうか。

 解読不可能な暗号は、「量子暗号」といって、従来のセキュア通信(第三者に盗聴されないように対策を施した通信)とは異なり、第三者が解読することが原理的に不可能なので、盗聴ができないと、今はみなされている。

 量子通信衛星を打ち上げるなどということが可能な背景には「人材の獲得」がある。

 「墨子号」チームのリーダーとなっていた潘建偉は、1970年に浙江省に生まれた物理学者で、中国科学院(※中国国務院直属のハイテク総合研究と自然科学の最高研究機関。中国工程院はここから分かれた)の院士(※研究者)であると同時にオーストリア科学院の外国籍院士でもある。国家「千人計画」の特別招聘専門家の一人で、20年ほど前、オーストリアに留学したときに、オーストリア科学アカデミー院長で宇宙航空科学において最高権威を持つツァイリンガー教授に会っている。

 帰国後の2001年に中国科学技術大学で量子物理学・量子情報実験室を持つことが叶い、こんにちまで走り続けてきたと、墨子号発射の後のインタビューで語っている。そして「中共中央が、人材優先の戦略を打ち出し、大々的な国家支援をしてくれたことが成功につながった」と感慨を漏らした。

 2017年9月29日、中国科学院の白春礼院長とオーストリア科学アカデミーのツァイリンガー院長は量子暗号を用いた世界初の大陸横断ビデオ会議を行った。墨子号と各国・地域の地上基地間の連結の実現は、墨子号と世界の任意の地点で量子通信を行う実現性と普遍性を示しており、量子通信衛星国際技術標準の形成の基礎を固めたことになる。

 今年は2018年。〔2025〕までにはあと7年ある。キー・パーツの70%を自給自足にすれば、中国の宇宙支配はもっと堅固なものとなるだろう。量子通信衛星でも多くの高度な半導体を必要とするのだから。潘建偉は、「中国は5年以内に高度を2万キロメートルまで上げる別の新型量子通信衛星を打ち上げるつもりだ」とも語っている。

 また、中国が2016年に発布した宇宙計画白書では、〔2025〕と歩調を合わせて、(アメリカや日本を中心として運営されている国際宇宙ステーションが2024年あたりに使用期限切れとなることを見込んで)2022年までに中国独自の宇宙ステーションを正常に稼働し始めるとしている。習近平政権が唱える「一帯一路」巨大経済構想に参加する発展途上国に対しては、資金や技術が十分でない場合、中国がその国に代わって、当該国の人工衛星を打ち上げ、保全してあげるという計画が、その白書には入っている。

 こうして宇宙スペースにおいて先に「唾をつけて」、宇宙の実効支配スペースを広げていこうという野望を習近平は描いているのだ。


SERENDIP編集部コメント

 「宇宙の実効支配」まで視野に入れた中国の戦略は、日本から見ると、誰の目にも不気味に映ることだろう。しかし「中国製造2025」は、多くの日本人の日々の業務にも関わってくるのではないだろうか。恐れるだけでなく、まずは冷静に、できる限り正確な情報を集めることが重要になるのは確かだ。

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『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』

遠藤 誉 著 | PHPエディターズ・グループ | 287p

書影目次
まえがき まえがき 米中貿易戦争の根幹は「中国製造2025」
1.「中国製造2025」国家戦略を読み解く
2.世界トップに躍り出た中国半導体メーカー
3.人材の坩堝に沸く中国
4.習近平の「宇宙支配」戦略
5.習近平、世界制覇へのロードマップ
あとがき 「一帯一路一空一天」

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