本書では、18世紀に遡る人工衛星の原理のルーツから、実物の開発、軍事利用や米ソの開発競争、通信衛星の活用、宇宙望遠鏡の打ち上げなどの歴史を辿る。また、気象観測や衛星放送・中継、インターネット、GPS、宇宙望遠鏡といった現状の用途と将来的な可能性を解説。さらに、どのような仕組みで地球上空の軌道を周回しているのか、などの疑問に応えつつ、将来的な課題や展望を述べている。著者は、英国ロンドンにあるサイエンス・ミュージアム技術工学部門の管理人代理を務める。論文や著書も多く、テレビやラジオでも講演を行っている。
人工衛星の原理のルーツはアイザック・ニュートンの思考実験
現在の人工衛星につながる発想は、実はロケットはおろか、飛行機すら存在しない時代からあった。それは18世紀の、万有引力を発見したアイザック・ニュートンによる思考実験に始まる。
ニュートンは、「強力な大砲を、高い山の頂上から空に向けて発射するとどうなるか」を考えた。大砲は高速でかなりの高度の上空に向かうが、やがて失速し、落下し始める。だが、地上に近づき、ある地点で、地球の回転による遠心力と引力が釣り合い、地球の周りを回り続けることになる。ニュートンはこの「非常に高速で空に打ち上げられた物体は、地球上空を周回し始める」という結論を、計算でも確かめた。
19世紀後半に活躍したロシアの科学者、コンスタンチン・ツィオルコフスキーは、物体が地球の周回軌道に乗るのに必要な速度を計算した。そして、それだけの速度を実現するにはロケットが不可欠であると発表した。それを受けた米国の研究者、ロバート・H・ゴダードは1926年、世界初の液体燃料ロケット打ち上げに成功する。
さらに1930年代の第二次世界大戦前夜、ナチス・ドイツが攻撃兵器として「V2ロケット」を開発。この技術が戦後、人工衛星の打ち上げを実現することになる。
1946年、大戦後の米軍の戦略研究のために立ち上げられた「ランド計画」では、「地球を周回する宇宙船」というアイデアが示された。それに注目した米軍は、高速ミサイルの誘導および観察、敵国の気象状況の監視などを目的に、人工衛星の研究を始める。
この研究では、人工衛星で電波を中継し、通信の精度を向上することも検討されたが、このアイデアは、英国の研究機関「英国惑星間協会」の、ある研究員の科学雑誌への寄稿をもとにしたものだ。その研究員こそ、後にSF小説『2001年宇宙の旅』を著したアーサー・C・クラークである。