客観的な行動データは、組織を変えることができるのか
職場に問題を抱える企業は多い。大規模な企業になれば、なおさらである。規模が大きいことからくる構造的な歪みが問題の原因である場合も多いが、それは、ただ放置して、諦め、悲観していればいいということと同義ではない。何かしら突破口を切り開いていかなければならないだろう。
これまで、組織開発・組織変革という領域では、そのような問題に対して、常に前向きな対応はされてきていた。職場で働く人間の行動を観察、調査、分析し、取得したアンケートデータをもとに、組織全体の仕組みや取り組みにフィードバックを与えてきた。しかしながら、そこには常にある問題が潜んでいる。登壇したBen Waber氏も、もちろんその問題に気づいていた。
基本的にわたしは人間の行動に興味を持っています。わたしにとっておもしろいことは、会社が顧客の行動について興味を持っていても、社内のデータについてはあまり取得できていないことです。アンケートや人間観察によって、社員が何をやっているか、自分の仕事が好きかどうか、を把握しようとしていますが、それらのデータの多くは主観的なものです。
例えば、社員に対して仕事の満足度のアンケートを取るとしよう。もし、その日の天気が晴れであれば、多くの人が、自分の仕事は好きだ、と答えるかもしれない。もし、その日の天気が雨であれば、多くの人が自分の仕事に気持ちが乗らない、と答えるかもしれない。
また、人間観察においても同様に主観性は排除できない。ときおり深い洞察も可能ではあるが、どうしても観ることのできる対象は小規模になってしまうという限界がある。同時に1000人の社員を観ることは不可能なのだ。では、どうすればいいのか。大規模な組織の変革の指針となる客観性に富んだデータはいかに取得できるのだろうか。Ben氏は続ける。
もし150年前に自分が野球チームをつくりたかったら、自分がスカウトをするか、スカウトを雇って常時野球選手を見に行って、主観的な観測によってチームをつくります。実際、その手法は2001年まで継続されていました。でも、ある日、オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMがそのやり方を変えました。『マネーボール』という映画を見た人がいますか? 『マネーボール』は基本的に人間の行動データを使うことによって組織をつくっていくお話です。野球であれば、それは打率やエラーなどの計量となります。ただ、もし、同じような手法をビジネスに活用できると何ができるでしょうか? それがわたしのクエスチョンです。