名鉄が取り組むビジネスモデル転換のためのDX
壁谷氏は、名古屋鉄道(以下、名鉄)のデジタル推進部にてグループDXを担当しており、名鉄グループに所属する各社のDXを推進する業務に携わっている。講演の冒頭では、名鉄および名鉄グループの紹介が行われた。名鉄は、愛知県・岐阜県を中心に、総長約440kmの路線を展開する鉄道会社であり、不動産事業として駅ナカビジネスや賃貸ビルの運営も手掛けている。名鉄グループとしては、バスやタクシーなどの交通事業、百貨店などの流通事業、ホテル事業なども展開し、関連会社の総数は130社に及ぶ。コロナ禍前の時点で名鉄は単体1000億円、連結6000億円の売上高だったが、コロナ禍で落ち込み、現在でも10%程度下回る水準のようだ。
コロナ禍では、主力の鉄道事業を含めグループ全体が影響を受けてしまった。現在は回復への道半ばであるが、回復しない可能性も前提としながら、ビジネスモデルを転換しなければならないと壁谷氏は話す。また、名鉄の中期経営計画では、2027年を予定しているリニア中央新幹線の開業に向けて、名古屋駅の再開発を“一丁目一番地”の事業と位置づけており、グループとしては各事業の構造改革も求められている。
こういった背景がある中、ビジネスモデル転換のための手段として、グループ全体でDXに取り組んでいるという。ペーパーレス化を初めとした業務プロセス改革から始め、MaaSを進めるべく鉄道、バス、タクシーをITで結びつける取り組みも行っており、2022年3月にはエリア版MaaSアプリ「CentX」をリリースしている。また、ChatGPTなどの生成AIを活用したプロジェクトも進めているという。そして昨年より、CX、EXを推進する「エクスペリエンスプロジェクト」として、名鉄はクアルトリクスの「Qualtrics CustomerXM」を導入した。
壁谷氏によると、エクスペリエンスプロジェクトは、業務評価の指標としてCX・EXを取り入れようという話から始まったそうだ。「長期の利益目標を達成するためには顧客満足度・従業員満足度を高める必要がある」という考え自体は名鉄にもあったが、鉄道事業という性質上、顧客を“個”ではなく“マス”でとらえる習慣があり、顧客に感動的なサービスを届けるという発想には欠けていたと壁谷氏は話す。CX強化にあたり、性能の高さやグループ全体で部門横断的に導入するメリット、コストなどを考慮してクアルトリクスの採用を決めたという。
名鉄ではすぐにサービスを導入したわけではなく、まずはトライアル導入から始めたという。トライアル段階では採用対象企業を絞り、以下の4点を目的として検証が進められた。
- 名鉄だけでなくグループ全体で顧客満足度調査を安定的に運用できるか
- 調査結果として得られるダッシュボードを、次の改善アクションに活かせるか
- 採用した場合の実施担当部署における負担ボリュームの見極め
- 従来使用していた無償ツールであるに対する優位性
トライアルでは、結果を年度内で経営者評価・業績評価につなげるという目標があったため、アンケートのアウトプットも昨年の年度内に終わらせる必要があった。しかし、キックオフは9月であり、わずか3ヵ月というタイトなスケジュールになってしまったという。10月にはカスタマージャーニーマップの作成とアンケート設問の作成を行い、11月にアンケートのテスト配信と本番配信を実施。その後12月に結果をまとめたダッシュボードの作成を完了し、何とか年内に各社への説明を終わらせることができたと壁谷氏は振り返る。トライアル自体はタイトなスケジュールではあったが、名鉄とグループ各社、そしてクアルトリクスが三位一体で協力したことで、無事トライアルを終わらせられたと話す。