「管理職要件の明文化」で男女ともに管理職候補者が増加
田中弦氏(以下、敬称略):前半では、2021年に人材マネジメントポリシーを刷新したというお話を伺いました。今、人事の領域で力を入れていることはなんですか。
柏村美生氏(以下、敬称略):DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)推進ですね。2021年5月、国内外リクルートグループのサステナビリティコミットメントの一つとして、2030年度までにグループの合計で各階層の女性比率を約50%にすることを目標にしました。
リクルートでは2006年にDEI推進の専任組織を発足し、働きがい・働きやすさにおいて一定の成果は出ていました。しかし、従業員の男女比が半々である中、管理職の男女比も同等になるのが自然なはずですが、実態はそうなっていないので、やり方を変えなければいけないと考えました。
やったことの1つが、各事業部の3カ年計画にDEI推進のKPIと計画を盛り込むということです。人事が頑張るということではなく、事業のトップ自らに考えてもらいました。
私自身が事業部長だった頃を振り返ると、人事が何に力を入れているのかなんて気にしたことがありませんでした。だから、自分の事業のKPIとして推進してもらわない限りDEIも絶対進まないと思ったんです。
田中:ダイバーシティの向上自体が目的ではなく、あくまで事業戦略の一貫として、ということですかね。
柏村:そうです。まずは女性の数に注目していますが、本当に個があるがままに生かされる状態になっていたら、性別でKPIを立てる必要もないはずですよね。
田中:自然に半々になって然るべきだと。
柏村:はい。今ギャップがあるのは何故なのか、様々なデータを分析して見えてきたのは、アンコンシャス・バイアスの影響です。例えば、自分たちの成功体験をもとに次のリーダーを選んできた結果、似たような人たちがリーダーになりやすい。
田中:なるほど。
柏村:そこで、あらためて「リーダーに必要な要件とは?」ということを現場の組織長を中心に話し合ってもらいました。そうすると、必要だと思っていた要件が本来は不要であるとか、逆にこれまで明確にしていなかったけれど必要な要件も見えてきました。これが「管理職要件の明文化」の取り組みです。
リーダーの要件がシャープになった結果、試行導入した組織では、課長職候補の人数が女性は1.7倍、男性は1.4倍に増えました。つまり、過去の成功体験で似たような人をリーダー候補に選んできた結果、男性の中にも、能力があってもリーダー候補から排除されていた人がいたということです。
田中:リーダーになれる人材が、実はもっといたということですね。
柏村:はい。まずは女性の数をKPIにしていますが、それは「個をあるがままに生かす」という目的に向けた第一歩であるということを、手を変え、品を変え、社内に伝えています。