コミュニケーション手段のDX化で中間管理職が不要に
カクイチのDXが大きく前進するきっかけになったのは、ピアボーナス(従業員同士が感謝の気持ちとして小額の報酬を送り合うこと)のツールであるUniposとメッセージングアプリのSlackを導入し、同時に工場勤務の社員やショールーム勤務のパートタイマーも含む全従業員にiPhoneを配布したことだった。さらに、紙の書類やExcelファイルなどをGoogleドライブ上に移したことで、誰もが必要な情報にアクセスできるようになった。
現在、業務連絡や報告はほとんどがSlack上で行われる。例えば工場に見学者が来る場合、来客予定を登録するGoogleフォームに入力された内容が、Slack上の工場のメンバーが見るチャンネルに自動で投稿される。「機械の調子が悪いのでメンテナンスしてほしい」といったことも、専用のGoogleフォームに必要事項を入力すれば、Slack経由で担当者に伝わる仕組みだ。他にも、様々な申請や連絡がiPhoneやPCから簡単にできる仕組みが社員の手で作られている。
自動化された投稿だけでなく、社員の投稿も非常に活発だ。誰かが業務の報告を投稿すると、ねぎらいや感謝、励ましのコメントが付くことも珍しくない。「こんなことで困っている」「何か良い手は」といった投稿に対してアドバイスや情報が集まり、事態が進展することも多々あるという。
田中離有社長は「多くの会社は連絡や報告に時間を使いすぎ。それはSlackでできるのだから、会議では未来の話に時間を使うべきだ」と指摘する。
Slack導入前の主な連絡手段は電話とFAXだった。それが今では、日々新しい情報がオンラインでやり取りされ、ストックされるべき情報はクラウド上にあってすぐにアクセスできる状態になった。それが組織の形も大きく変えた。経営層と現場の間に立って情報を伝達したりコントロールしたりしていた中間管理職が不要になったのだ。
ピラミッド型だった組織を小さなグループの集合体へと組み替え、それぞれにPL責任を持たせた。そうすると現場のメンバーの当事者意識が高まり、意思決定も格段にスピードアップした。
しかし、そこで改革は終わらなかった。田中社長は、現場の社員たちと比較して間接部門の変化が乏しいという課題を感じていたという。