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実践フェーズの人的資本経営

老舗5代目社長がエフェクチュエーターとして組織風土を改革──なぜ視察が絶えない工場が生まれたのか?

前編

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 地方の中堅企業ながら、全国からの視察が絶えない会社がある。明治19年(1886年)創業の老舗、カクイチグループだ。現場主導で進むDXのほか、ITツールを活用したコミュニケーションの活性化、風土改革など、同社のユニークな取り組みは様々だ。特に、1960年からの樹脂ホースやガレージの製造に加えて継続的に新規事業を生み出している点、社員が担当業務の枠を超えて社内の課題に取り組みスキルと自発性を高めていく仕組みなどは、人的資本経営の実践例として注目に値する。同社の工場や「インキュベーションセンター」と呼ばれる施設を訪れ、社員やトップに取材した。前編では社長のユニークなビジネス哲学とその背景および組織風土改革の取り組みを、後編では社員の能力を見出して引き出す、独自の取り組みをレポートする。

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なぜDX優良事例として視察が絶えない工場が生まれたのか

 東京から車や鉄道で2時間半ほどの自然豊かなまち長野県東御市。ここに、年間で100以上の企業や団体、自治体などが視察に訪れる場所がある。明治期に金物店として始まり、今年で創業138年になるカクイチグループの工場と事務所だ。

 ここでは、各種ビニールホースとガレージなどの建材を生産している。いくつも並ぶ工場の建物は、どちらかというと昭和っぽさが漂う佇まいだ。

 だが、旧来型の工場によくある黒板やホワイトボード、紙の書類の束といったものがここでは見当たらない。代わりに、あちこちに設置されたモニターが、各ラインの稼働状況や材料の補充が必要になるタイミングなどをリアルタイムに映し出している。

 また、業務連絡などは全てSlack上で行われている。パートタイマーも含む全社員が会社から支給されたiPhoneでSlackを利用するため、手書きのホワイトボードや紙の書類は必要ないのだ。

画像を説明するテキストなくても可
ホースを生産するライン。上部のモニターに生産状況が表示されている

 敷地内の倉庫に移動すると、出荷を待つホースが7メートルの高さにまで積み上げられている。毎月の棚卸し作業の際、以前は目視で数えて手書きで記録するのに2人で3時間かかっていた。今は製品に貼り付けたRFIDタグを読み取って自動でデータ化しており、1人で15分の作業に短縮された。倉庫の入口にはRFIDの読み取り機が付いたゲートも設置し、製品の入出庫がリアルタイムに在庫数に反映されるようになった。

画像を説明するテキストなくても可
高く積まれた製品にリーダーをかざしてRFIDを読み取り、在庫数をカウントする

 棚卸しと入出庫管理のシステムは、株式会社サトーによるRFID対応の入出庫・棚卸システムを導入した。システムの選定もカスタマイズも、社外のコンサルタントなどに頼らず社員が行った。工場のモニターにラインの状況を映し出したりSlackに業務連絡を流したりする仕組みも、すべて内製だ。

 現場のニーズが分かっている社員がつくるからこそ実効性があり使われるシステムとなる。ゆえに優良事例とみなされ、Slackを提供するセールスフォースやRFIDのシステムを提供するサトーなどが次々と顧客を連れてくるようになったのだ。

 来訪者たちは、優れたDXの方法を知ろうとしてやってくる。しかし現場を見て社員の話を聞くうちに、同社の風土改革の取り組みや新規ビジネスの展開にも注目するようになるという。

 というのも、同社は1960年代に始めた樹脂ホースやガレージの製造販売を主力としつつ、2000年代からはミネラルウォーター、ホテル、太陽光発電、農業用装置など多角化に成功している。最近では、サブスクリプションモデルでEVフォークリフトを提供したり、自治体とEV三輪カートを使った公共交通システムの実証実験を行ったりなど、グリーンビジネスにも乗り出している。

 地方の老舗企業は、ともすれば伝統や組織の論理に囚われ、世の中の動きに疎くなりがちだ。カクイチがその轍を踏まなかったのは何故なのか。誰もが知る大企業も含め、その秘密を知り、変革のヒントを得ようとする会社が増えているという。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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