デジタル領域における協業の進展が成長機会をもたらす
この調査によると、大企業はベンチャー企業との協業を通じて収益性の向上を目指しているものの、成長戦略や文化、ニーズの違いなど、規模の異なる企業間に存在しているギャップが、デジタルを活用したイノベーションの創出を阻害していることが明らかになったという。
一方、デジタル領域における協業が進展することで、全世界のGDPの2.2%に相当する1.5兆ドルの成長機会をもたらし、日本ではGDPの1.8%に相当する940億ドルの成長機会をもたらすことが明らかになったという。
この調査では、82%の大企業がスタートアップやベンチャー企業から「デジタルを強みとした企業へと転換する方法を学びとることができる」と答えている。また大企業は、ベンチャー企業との協業を通じた収益性が「今後5年間で、現在の9%から20%に上昇する」と大きな期待を寄せている。
大企業とベンチャー企業とのコラボレーションは、現在、大企業による単なる資金援助に留まらず、社内ベンチャー制度の導入や、育成モデルが取り入れられており、今後はデジタル領域における協業が進展することによって、広範なパートナーと共により多くのオープンイノベーションが生まれると考えられている。しかし、大企業とベンチャー企業では協業に対して異なる課題が存在している。
大企業とベンチャー、ギャップの一因は企業文化の違い
この調査によると、78%の大企業が「ベンチャー企業との協業は自社成長・変革に重要、または必須である」と答える一方で、同様の回答をしたベンチャー企業は67%に留まった。また、41%の大企業が「ベンチャー企業は本気で自社の成長に向けた支援をしてくれている」と答える一方、「大企業は自分たちの成長に向けて真剣に取り組んでくれている」と回答したベンチャー企業数はわずか24%に留まった。
さらに、「相手企業が協業に貢献していない」と答えた大企業は7%に留まっているのに対して、同様の回答をしたベンチャー企業数は4倍(29%)に達している。
このギャップが存在する一因として、企業文化の違いを挙げている。75%の大企業が 「ベンチャー精神に対して十分に理解している」と回答している一方、大企業での勤務経験を持つ75%のベンチャー起業家は「大企業を退職した理由は、起業文化を育成する環境がなかったため」と答えている。
「Harnessing the Power of Entrepreneurs to Open Innovation」では、大企業に対して、次のようなさまざまな提言を行っている。
- 明確な戦略定義:全てのパートナーが ROI(投資対効果)や職責を平等に担うため、事業成果を共有する方法を定義すること
- 目標と予算定義:優れたアイデアを実証段階で終わらせずに、素早く展開できる拡張性を持たせること
- 起業文化の育成:社員のベンチャー精神を育成し、起業する社員を支援すること
また、行政に対しては次のような提言を行っている。
- 共同出資モデルの整備:助成金制度やクラウドファンディングなど、さまざまな資金調達モデルを整備し、異なる成長ステージにいるさまざまなベンチャー企業のニーズに応えること
- コラボレーションネットワークの創出:限られた大学や参加者に依存するのではなく、パートナー企業群の支援や融資を積極的に行う産業クラスターやネットワークを整備すること
- 物理的な制限の無い協業環境の構築:国境を越えた安全なデータ通信を推進するための法整備を行い、必要な人材を安定して供給するための移民政策を進めて、デジタル取引を支援すること