投資額の一律カットや一部事業の中止で、
事業ポートフォリオの全体最適は可能か?
では、全体最適を導くための事業ポートフォリオの最適化は、どのように行うのでしょうか。全体最適を図るには、一部の戦略投資の投資額を削ったり、その分の予算をほかの事業などに回したりする必要があります。この再配分を検討するために、まずは各戦略投資に代替案を用意する必要があります。
ではより違いを明確するために、代替案がない場合の検討と、代替案を用意してある場合を比較してみましょう。投資予算枠は、全体で120億円とします。
戦略投資の各案件に代替案のない場合
まずは、3つの戦略投資案件を、代替案がないまま検討する場合です。3つの戦略投資案件の投資額とリターンの見込みは以下のような内容だったとします。
投資額 | リターン見込み | |
---|---|---|
戦略投資Aの計画 | 70億円 | 100億円 |
戦略投資Bの計画 | 30億円 | 45億円 |
戦略投資Cの計画 | 40億円 | 70億円 |
予算枠が120億円ですから、全ては実行できません。枠を使い切るとすると、AとCが選択されることになりそうです。その場合、残念ながらBは見送りとなります。この場合のリターン見込みは、AとC合計で170億円です。AとBを選択した場合のリターン見込みは145億円、BとCでは115億円ですから、どうやらAとCが選択されそうです。
あるいは、戦略投資A・B・Cのすべての投資額を一律カットして、合計で予算枠の120億円にすればよいのでしょうか。「一律カットで全員痛みわけ」という解決方法は、関係者の不満を抑えることが最も重要な場面では、あり得ないことではありません。3案件合計で140億円だったのを120億円に絞るのは、工夫次第で可能なようにも思われます。
しかし、これでは計画が実行不可能になったり、計画が遅延して狙ったリターンが達成できなくなったりする事態が起こりえます。投資額の一律カットによって、一律に中途半端になってしまっては、元も子もありません。現場からすると、一律カット策は意思決定者の怠慢のようにすら思えるかもしれません。
戦略投資の各案件に代替案のある場合
次に、代替案を用意してある場合を見てみましょう。まずは、戦略投資Aだけを見てみます。戦略投資Aに代替案があるということを、下記のように示します。
投資額 | リターン見込み | ||
---|---|---|---|
戦略投資Aの計画 | 松 | 100億円 | 130億円 |
竹 | 70億円 | 100億円 | |
梅 | 40億円 | 60億円 |
投資額を増額する場合、減額する場合、というプランをあらかじめ実行部隊に検討してもらいます。上記3つの案から1つを選択する際に、「最もリターン見込みが大きいものを選択する」という判断基準を用いると、「松」案が選択されることになります。この状態を、「戦略投資Aに関して個別最適」といいます。
ところで、戦略投資Aの松・竹・梅の投資計画案を見て、「松」案の投資額100億円は、「梅」案40億円の2.5倍なのだから、「松」案のリターンは「梅」案のリターン60億円の2.5倍(150億円)であるはず、と思った方がいらっしゃるかもしれません。40億円買って60億円儲かるはずの株式や債券は、100億円分買えば150億円儲かるはず、と言えそうです。
しかし、事業に関しては、この考え方は間違いです。投資額に対するリターンは、工場を建てる、新技術を開発する、新市場のリーダーとなるスケールを追求する、など投資の内容によって異なります。投資とリターンの関係が、株や債権のように単純ではないのです。これは、戦略投資を考える上で、注意が必要なポイントです。