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『VRコンテンツ最前線』著者に聞いた!「没入体験」ビジネスの可能性

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バーチャルリアリティ(VR)はゲームやエンターテイメントの世界だけでなく、マーケティング、シミュレーション、展示系などの業務利用まで期待されている。ヘッドマウントディスプレイも各種出揃い、いよいよ本格的に始まろうとしているVR。そのビジネスとしての考え方について、最新書籍『VRコンテンツ最前線』(翔泳社)の著者に話を聞いた。

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予想以上に早く起きたコンシューマー系のVRの波

株式会社桜花一門 代表取締役社長 高橋建滋氏

――『VRコンテンツ最前線』に紹介されている作品はどのような基準で選ばれているのでしょうか?

この本では、VRコンテンツの事例を数多く紹介して、費用規模、製作工程、スタッフ構成、制作ノウハウをガイドブックの用に参照できる構成にしています。とりあげているVRのコンテンツは、「ビジネスとして実績のある」という基準で選んだものです。VRは始まったばかりなので、市場にある事例も玉石混交なのですが、この本で重視したのはコンテンツの「質」と「実績」です。「実績」は広告代理店や地方自治体と一緒に仕事をしたかどうかで選ばせてもらいました。実際にどんなに腕がよくても、イベントごとなど大勢の人が関わる現場の中で仕事ができるかどうか、これを広告代理店の人間(本著のメインターゲット)は気にするかと思って、この基準で選びました。

『VRコンテンツ最前線』(桜花一門著 翔泳社) Amazonへのリンク

――桜花一門さんのVRビジネスのきっかけを教えてください。

もともとゲーム業界にいて3年前にVRを知って会社を辞めて2年前に独立しました。イベントとかもいろいろやっていたのですが、まあ儲からない(笑)ので、BtoCに切り替えたんです。当初の予定では、最初に広告ビジネスの波が来て、その次にBtoBの波が来て、コンシューマー系は最後に来るだろうと予想していたのですが、コンシューマー系がPlayStation VRやOculus Riftの発売などで予想以上に早く来たという感じです。一方でBtoBのビジネスの波は意外に来なかった。
広告で稼いでいる間に、BtoBで案件をとって、BtoCに移行しようと思っていましたが、一気にBtoCに行った方が良いと判断したんです。
BtoBが遅かったのは、企業の担当者が意外に慎重で、これまでVRに大きな予算をかけられないという判断が大きかったのですが、そろそろ変わってきたと思います。

――本に取り上げている案件の中でお薦めの事例はどれでしょうか?

質と量という面では、積木製作さんのものです。「恐竜戯画」「Jatco CVTバーチャルドライビング」を取り上げています。積木製作さんは2年ほど前に、VRでイベントが起ち上がった最初期から初めた会社のうちの1社です。Oculus Rift版だけでなく、HTC Vive、ハコスコ版、Samsun Gear VR版などを用意されていて、展示でのレンタルなどの運営面でもかなり経験を持たれていると思います。

恐竜戯画(株式会社積木制作)
Jatco CVTバーチャルドライビング

――こういうお仕事はどういう収益モデルで、VR業界はどのようなプレイヤーで構成されているのでしょうか?

たとえばモーターショーなどの大型のイベントで製作を請け負うという形です。国内のVR業界としては、ほぼコンテンツ製作の会社です。アメリカでは巨額の投資が動くので、インフラやプラットフォームにチャレンジするプレイヤーも出てきていますが日本ではそこはまだ難しくて、やろうとしても中途半端な規模になって残念な形になっています。一方で、中国のように、コピーでも良いからハードウェアをやろうというアグレッシブさもありませんから(笑) 日本ではやはりコンテンツが世界と戦える可能性なので、そこが中心になりますね。ただ今は「VR儲かるかも」ということで、360°カメラでとりあえず買って参入してくるちょっと残念な会社さんも多い。そういう揺籃期の中で、本気で仕事が出来るという条件で選ばれたのがこの本に紹介している会社です。

――不動産などでは内覧代わりに360°VRで見せるとか観光地などをVRで紹介するなどもありますね。BtoBのビジネスもそろそろ起ち上がってくるところでしょうか?

積木製作さんの事例では高所の作業のVRで体験するなどの事例はあります。ただ課題としては「わざわざVRでやらなければいけない程、コストの高い分野を選ぶ」ということです。たとえば車の整備であれば、今であればVRコンテンツを作るよりも中古車を借りてくる方がよっぽど安くて確実ということです。

リノベーション不動産体験(BOX VR)


――そうすると、VRが適する分野の見極めが大事ですね。建設現場とか工場での大規模な設備の作業などでしょうか。

そうですね。後は、「従来の方法ではコストが高くて出来なかった分野をまず見つけること」「そこを問題として経営者が認識する」「その分野を解決するVRの制作会社がある」という3つの要素が必要です。
もうひとつは、まだ今の段階では「1点もの」になってしまって、A社で作ったものがB社で転用できないということですね。それぞれの会社を熟知していないといけないということになってしまい、カスタマイズできずコスト高になってしまうということです。

本格ビジネスは長期戦の覚悟で、VR特有の技法を確立したものが勝つ

――今後のVRビジネスのロードマップはどう考えていますか?

おそらくこの3年ぐらいは、まずゲームをしっかり作るということだと思います。TVであればCMやショッピングなどのビジネスが成立するには、まずTV番組があって、TVの前にまず人が来るという状況がある。TV番組が面白くないと、TVにまつわるビジネスが成立しない。

VRでも「HMDをかぶると楽しいことが待っている」ということを多くの人に刷り込まなければいけないわけで、VRがそこまで浸透して、マジョリティの前半の人にまで届くには最低でもあと3年はかかると考えています。本気でやっている人たちは、長期戦で構えていると思います。Facebookのザッカーバーグは、今後10年というロードマップを語っていますね。

――今後のプラットフォームの動向としてはどこに注目されていますか?

やはりPlayStation VR、そしてGoogleのDayDreamの動向ですね。価格と機能の指標があって、入力デバイスの性能まで考えればOculus Riftが最上位で、価格とのバランスではPS VR。今後も中国系などまだまだデバイスは出て来るでしょうが、ソフトを作る側としては入力デバイスの優秀さと、プラットフォームや市場性で選ぶわけです。Amazonで言えばKindleのようなマーケットが成立しているかどうかです。HTCのViveなどはアメリカ性のSteamというプラットフォームがある。Oculusにも3年かけて育てた開発者とマーケットユーザの基盤がある。PS VRもソニーのマーケットとエコシステムが出来ている。GoogleもGoogle Playが出来ている。そう考えると、入力デバイスやプラットフォームが他社より弱いサムスンのGigaVRなどの選択は難しいのではないでしょうか?マーケットだけできても開発者のエコシステムを引っ張り込まないと成立しない。そう考えると、今後はアップルやAmazonが参入してくる以外は、他に選択肢はないかもしれませんね。

――日本のVRスタートアップの状況はいかがでしょうか?

私自身もVRスタートアップからファンドで出資を受けている段階です。今はまだ立ち上げなので、全般的にまだみんな試行錯誤中ですね。スマホのゲームと比較されて、おなじぐらい儲かるのではと期待されることのあるのですが、正直あのぐらいの収益構造を期待されると厳しいと思います。なぜなら、ダウンロード課金やモバイル広告のようなビジネスモデルはまだ確立していませんし、入ってくるユーザー数がまだ少ない。当面は「売り切り型」のゲームコンテンツのビジネスモデルになります。しばらくは、ゲームなりで、しっかりしたコンテンツを作っていくのが一番だと思います。モバイルのゲームのガチャとか課金によるボロ儲けはまだ早いのです(笑)

もうひとつは、映像技法というものが重要になってきます。アダルトなどもそうですが(笑)、従来の映像の世界では、映像作家がしのぎを削って、カット割り、モンタージュ、テンポなどの技法を駆使して、観客を引き込む世界を作ってきた。同じようにVRの世界でも、VR特有の映像技法を見つけた者は天下を取れるかもしれません。Oculusのアニメ「ヘンリー」がエミー賞をとりましたが、ああいう世界が第一歩かもしれません。
その世界では、日本は可能性があるのではないでしょうか?日本人は制約された条件の中で、何かを作ることには長けています。ファミコンのゲームと時にも、3人しかキャラが設定できないのに、バグを利用して4人表示させるなんてことをやっていたぐらいですから。

――最後にこの本の読み方、使い方についてお話ください。

広告代理店や今からVRイベントなどのビジネスを起ち上げたい人が、これを読んでVRコンテンツの予算感や作り方の基礎を学んでほしいと思います。この本の最後に「VRあるあるトラブル集」には、クライアントとの間で起こりがちな予算や制作上のトラブルを洗い出しています。クライアントとの間で予算上のトラブルなどが起きそうなときに、「御社のやろうとしている企画はこのぐらいの案件です」という参考資料として使っていただくことも出来ます。
また巻頭にはVRコンテンツの製作の基本フローも紹介しています。「体験人数決定」「再生機材の選定」「CGか実写かの選定」「費用の決定」の各ステップを順番に細かく解説していますので、企業の中の事業開発の方にもぜひ参考にしていただきたいですね。

タイトル 株式会社桜花一門 代表取締役社長
高橋建滋氏
2013年の4月にOculus DK1をKickstarterで手に入れ、すぐにVRにはまる。2013年8月には世界初のVRイベント、オキュフェスを開催。2014年、オキュフェスをNPO化し代表理事に。また自身も個人事業主として独立してプロVRクリエーターになる。2016年、法人化。TokyoVRStartUpの支援をうけ、VRベンチャーとしてVRゲームを製作中

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