オフィスを出よ、そこにイノベーションの種はない
冒頭で当日のテーマを紹介したのは、紺野登氏だ。紺野氏は、多摩大学大学院教授、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)代表理事と共にFCAJの代表理事をつとめる。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどにかかわっている。
紺野氏は、企業のイノベーションと「場」の関係を、時代の変遷と共に語った。
日本企業の回復実感がないのは、単なる経営戦略上の問題でなく、組織に知を生み出すふさわしい「場」が欠如しているからだという認識だ。場がイノベーションの鍵を握るのだ。イノベーションとは単に新規事業でなく本業の革新も意味する。
現在ほどイノベーションの重要性が語られてはいなかった時代の企業の関心は「オフィスにおける生産性向上」にあった。今でもこういった企業が多い。一方、日本企業にイノベーションの重要性が叫ばれているこの10年の関心は、ナレッジマネジメントなど「組織内の協業・知の共有」にあった。しかし現在、企業はオープンイノベーションに代表されるような「オープンな協業・知の創造」を目指すべきだという。それがFCAJのような組織の背景にある。さらに、FCAJでは、フューチャーセンター、リビングラボ、イノベーションセンターという3つの場を活用した「都市との境界融合・社会実験型の場」を提言している。パブリックスペースなど都市空間をも射程に入れた社会的観点からイノベーションを考える時代が来ているという。
FCAJではこうした場の活用にあたってのガイドラインとして、会員企業向けに「7つのP」を紹介している。「7つのP」とは、「Purpose:目的」「People:人間」「Performance:展開」「Program:時間・仕組み」「Process:手間・展開」「Promotion:関係者の巻き込み・成果」「Place:空間・場所」の7つだ。
イノベーションには、社会の活力と社外の変化を結びつける必要がある。それにはトップマネジメントの関与と場の構築が不可欠だ。従来のオープンイノベーションを超える、社会や顧客を巻き込んだ「オープンイノベーション2.0」が叫ばれている中、社会の変化と連動してイノベーションの場をデザインしていく上で、この7つのPが指針となるという。とりわけ重要なのはイノベーションの「目的」だ。
紺野氏は最後に、リーンスタートアップのグルで、『アントレプレナーの教科書』(翔泳社)の著者でもある、スティーブン・G・ブランク氏の言葉を引用し、講演を終えた。
(イノベーションのための)必要なタネはあなたのオフィスには存在しない。外に出よ。