オルタナティブ・レンディングとは何か
「レンディング」という言葉は一般にはそれほど馴染みがない。日本語で言えば、お金を融通する「融資」のことだ。「中小企業向けの融資」という言葉には悲愴感がつきまとう。池井戸潤原作のTVドラマで町工場を営む社長が銀行の支店長にすがるシーンや、マンガ『ナニワ金融道』の世界が思い浮かぶ。
この「レンディング」の世界をクラウドとAIで刷新し、新しい価値を提供しようというビジネスが生まれた。会計ソフトで有名な弥生が新会社アルトアを立ち上げてスタートした、「アルトア オンライン融資サービス」というクラウドサービスだ。企業の会計データをクラウドに上げ、AIが審査をして融資を行うというもの。これまでの中小企業向け「融資」を、カジュアルで親しみやすいイメージに変え、使いやすく安心なものにすることを目的としている。
弥生は、2017年、看板製品である「弥生シリーズ」の30周年を迎えた。PCソフトの黎明期からの老舗ともいえる企業だ。「この30年は波乱万丈だった」と語るのは、弥生の代表兼新会社アルトアの代表でもある岡本さん。かつてはライブドアに買収され、ライブドア事件の後は投資ファンドの傘下になり、その後オリックスグループとして現在に至る。紆余曲折があったものの、会計を中心とした業務ソフトウェアのビジネスは堅調でシェアのトップを占めている。
30周年というマイルストーンに達成感はあるものの、岡本さんは既存ビジネスの限界も感じていた。「会計は会社の状態を把握するもの。あとどれだけ走れるかを測定することは出来るが、燃料をくべることは出来ない」という会計の価値に対する疑問だ。
ここ数年、金融には新しい波が起きている。テクノロジーによる金融の変革、いわゆるフィンテックの波だ。フィンテックという言葉には、一歩引いて見ていた岡本さんだが、海外で起きている「オルタナティブ・レンディング」という新しい融資ビジネスには惹かれた。
オルタナティブ・レンディングには2つの流れがある。「お金を借りたい個人や事業者」と「お金を貸したい個人や事業者」をインターネットでマッチングさせる融資サービスの「P2Pレンディング」。もうひとつは、様々なデータを活用して与信モデルを作り、インターネットを通じて短期間で融資をおこなう「オンライン・レンディング」だ。
最初、岡本さんは事業者向けの「P2Pレンディング」をやろうと考えた。AirbnbやUberのように、欲しい人と提供できる人をマッチングさせるシェアリングエコノミーを融資の世界で実現したかった。米国ではLending Club社が成功し注目されている。しかしこのビジネスを日本で実施するには壁があることが分かった。
日本には貸金業法という法律があり、個人であっても継続的に融資を行えば貸金業とみなされてしまい、貸金業法上の制約を受けることになります。これでは、米国のようなP2Pレンディングのメリットを出すことは非常に難しい。これは、法律がシェアリングエコノミーの普及を阻んでいるという意味で、UberやAirbnbと同じ構造です。(岡本さん)
しかしそこで諦めては、イノベーションは起こせない。P2Pではなくとも、オンラインならではの利便性を提供するのであれば可能性はあるのではないか。そう考えた岡本さんは、「オンライン・レンディング」にフォーカスした。オンライン・レンディングでは米国のOnDeck社やKabbage社が有名だ。米国オンライン・レンダーの特徴は、会計データや銀行口座情報等のデータ分析をAI(人工知能)で行うことで、小規模事業者向けの与信審査をスピーディに行える点にある。従来型の金融機関による人手をかけた審査手法では、採算が合わなかった短期少額融資における新しい貸し手として存在感を発揮している。
米国オンライン・レンダーは近年では金融機関との連携にも積極的で、OnDeck社はJPモルガン・チェースとの協業も行っている。
一方、まだ日本では、一般事業者向けのオンライン・レンディングの競合は少なく、オンラインで申し込みを受ける融資会社はあるものの、審査そのものは旧来通りのやり方がほとんどだ。ここに、弥生の会計データに関する知見とテクノロジー、データ分析やAI活用に強みを持つd.a.t.、オリックスの金融ノウハウを組み合わせれば優位性が確保できる、と岡本さんは考えたという。