日本の都市が抱えてきた課題――“供給側の論理”を超えて目指すべき都市とは?
テクノロジーが幸せを導く方法を考えると、テクノロジーが生産性を高め、結果的に経済基盤ができて福祉・安心・文化の維持が国や自治体単位で可能になるという経路と、技術が進化して自由な時間が増え、出会いも生まれて楽しくなったり、便利になったりするという2つの経路があると思います。いずれにしても公共空間については、経済や人材市場が円滑になるような産業活性化のための都市デザインをしないと、成り立たないと思います。しかし、一般的な『街づくり論』ではそこはあまり話題にされていません。都市デザインに関して、戦略目線や自治体の経営目線、経済的なサスティナビリティが都市計画と離れているように感じます。
モデレーターを務めるSPEAC共同代表の林厚見氏による、このような言葉から議論は始まった。
これに対して渋谷未来デザイン代表理事の小泉秀樹氏はこう説明する。
欧米では都市経営上で一番有効なツールが都市計画であるため、都市経営と都市計画はほぼ一体化しており、都市計画は都市の空間戦略を作るものになっている。都市の財源の6、7割が固定資産税ということも、都市経営と都市計画が一体化している理由だ。しかし、日本では長らく、道路や公園を作る“土木”を都市計画と考えていた。1960年代後半には欧米式の都市経営が紹介されたが、同じタイミングで都市計画を担当する部門が建設省(現・国土交通省)と自治省(現・総務省)に別れてしまった。また、欧米では一般的になっている“戦略的な計画作り”が日本ではまったく紹介されていなかったというのだ。
東京急行電鉄の山口堪太郎氏は、東急電鉄はもともと電鉄会社ではなく都市経営会社を目指していたことをふまえて、同社が今後20年を見据えて、不動産単体の事業から街全体の価値を高める企業への変化を目指していると説明する。利用者が目的の場所に行くことができるゲートウェイや、知的対流・交流創発の機能を担う場所として渋谷を再開発し、産業政策に結びつけることができるよう意識していると伝えた。
MyCity代表取締役CEOの石田遼氏は、多くのサービスが事業者視点から利用者視点に変わってきているが、「都市×テクノロジー」をテーマに掲げる施策の場合には、まだ供給者側に主眼が置かれがちだと話す。都市を考えるとき、スマートシティ化でエネルギーマネジメントすることや、全ての人をモニタリングできる社会にすることが議論されているというのだ。しかし、本当におもしろいのはユーザーの体験をテクノロジーで進化させる部分であり、そこに価値が眠っていると話す。
小泉氏も、どうしてもスマートシティを考えると供給側の理屈が重視されてしまうと同意する。そこで住民、利用者、事業者、大学、行政が連携して新しい都市の仕組みを生み出す装置として「リビングラボ」が必要になってくると話す。小泉氏が代表理事を務める「渋谷未来デザイン」は、そういった流れを受け、産官学民連携で運営されている。渋谷で活躍している人や企業、突出した力を持つ個人を結びつけ、オープンイノベーションにより社会的課題の解決策をデザインする組織である。ヨーロッパや韓国では自治体にシンクタンクが入り、都市経営のアイデアを研ぎ澄ましているが、考えるだけではなく具体的にアクションを生み出していく団体だという。