インターネットは社会を分断しているのか
インターネットが社会を良くするという草創期の夢は、今やすっかり消えました
そう語るのは、慶應義塾大学の田中辰雄教授。グローコムの主幹研究員である。
SNS、ブログの世界ではつねに炎上や、誹謗中傷、対立が生じている。そして、フェイクニュースがはびこることでネットの信頼性が低下している。「インターネットは、社会を良くするものにはならなかった」という意見が出てきた。このことは本当か、またその原因は何か。
これについては、アメリカではすでに調査結果があり、社会の分断が進行していることが判明している。たとえば、保守とリベラルの対立の鮮明化だ。大統領選と議会選で異なる党に投票すると答えた人は70年代には30%存在したが、2000年以降は10%に減少した。これは党派性が強まっている事を意味する。また、自分の子供が自分の支持政党以外の政党を支持する人と結婚することを良く思わないと考える親は、かつては5%と無視できるほどだったのが、今では30%から50%に達している。
最近の調査では、政治家のスピーチをAIで判定するというものがある。スピーチの内容から、保守かリベラルかを機械に判定させると、最近のスピーチほど、判定する時間が短くなっている。
スピーチの内容や言葉づかいが、両極化してより党派的になっているのです(田中教授)
こうした状況は社会の「分極化」(polarization)とよばれ、その原因がネットにあるのではないかという説がある。同質性の高い集団内でのコミュニケーションにより自分の意見がさらに拡張・増幅される「エコーチェンバー」、自分の関心ある情報だけに包まれる「フィルターバブル」といった言葉も知られるようになった。このような「選択性接触」(Selective Exposure)がおこると意見は、過激化しやすい。その結果、左右の極端に二分され、分極化が生じる。。
日本でも政治的な意見は両極化し、お互いを「ネトウヨ」「パヨク」と罵り合う。ネットは、分断をおしすすめているのだろうか?
分極化とネット利用の関係
田中教授と富士通総研はこうした傾向を検証するために2回の調査をおこなった。
SNSの利用と政治的意見の過激化の関係を調べたところ、以下の2つの結果が得られた。
1)まず、相関を見るとネットは分極化を進めているように見える。図表2の左上のグラフはツイッター・フェイスブックと分極化度合いのグラフで、右上がりである。ゆえに、ネットをよく利用する人ほど、極端な政治的意見を持つ傾向にある。これはネットのせいで分極化するという説と合っている。
2)しかし、 政治的意見の分極化に一番高い相関をしめしたのは年齢で、正の相関であった(図表2の右の表の矢印のところがそれをあらわしている)。すなわち高齢者ほど分極化されており、過激な意見を持つ。すると、これはネットのせいで分極化されるという説とは相容れない。なぜならネットのせいで分極化するなら、ネットに親しんだ若い層ほど分極化しているはずなのに、実際の傾向が逆だからである。
このうち後者の「分極化しているのは高齢者」という結果は注目に値する。これを確認するために、年代別に政策支持と政党支持との相関をとってみる。下の図表(図表3)がそれである。
たとえば「憲法9条を改正する」を例に取ると、憲法改正への支持不支持と、自民党の支持不支持の間の相関は70代では0.65と高いが、20代では0.39と低い。すなわち、高齢者は自民党支持であれば、ほぼ憲法改正に賛成するが、若い人はそうでもなく、かなりの人が反対に回る。他の論点についても同様にグラフは右上がりなので、若い人はある党の支持者でも政策によって是々非々であり、支持する党の政策を丸ごと支持するわけではない。これは若い人が分極化していない事を意味する。このように若い人が分極化していないとなると、ネットのせいで分極化するという主張はあやしくなる。
エコーチェンバーとフィルターバブルは起きているのか
では、「選択性接触」についてはどうか?
今回の調査のツイッターのフォローの傾向によると、保守よりのTwitterユーザーは、逆のリベラルな論客を32%フォローしている。リベラルな人の保守論客のフォロー率は47%。どちらも3、4割は自分の反対意見の人をフォローしていた。これは反対意見にも十分耳を傾けていると解釈できる。たとえ批判したくフォローしているにしても反対意見が耳に入っていることは間違いない。これだけ高いと選択性接触とは言いにくい。若い世代が選択的接触をせずに幅広い意見に耳を傾けているなら、若い世代ほど分極化しないのは当然の結果である。