PwCアドバイザリーでは、COVID-19の拡大で、(1)サプライチェーンの寸断、(2)商品(原油)価格の急落、(3)ヒトの移動の急減、(4)株価の急落、という「4つのアウトブレイク」が発生したと考え、それらがもたらす短期的・中期的な影響についてクライアントと議論を重ねている。
中期的にはこれらによって経済・社会の構造変化が起こり、(1)サプライチェーンの質的再構築、(2)脱資源/脱化石燃料、(3)デジタライゼーション/データエコノミー化、(4)財務戦略の転換/ESG投資の普及が進むと、見解を示した(図表1)。
この中で、金融機関にとって重要なのは、(3)ヒトの移動の急減がもたらすデジタライゼーション/データエコノミー化、(4)株価の急落がもたらす財務戦略の転換/ESG投資の普及だとしている。特に、COVID-19拡大の前後で非連続的な構造変化をもたらすのは、デジタライゼーション/データエコノミー化への対応だと、考えているという。
COVID-19拡大の前後で起こる非連続的な構造変化とは、「COVID-19収束後も元には戻らない経済・社会の構造」と言い換えられるとしている。PwCアドバイザリーは、これを前提に多くの企業はビジネスモデルの再検討を行う必要があると考えており、「ニュー・ニューノーマルの世界」と名付けた。
リーマンショック後に言われた「ニューノーマルの世界」に関するPwCアドバイザリーの解釈は、超低成長経済の下で勝ち組企業と負け組企業の差が鮮明になり、その中で改革の必要が高まった状態と捉えているという。これに対して、PwCアドバイザリーが考える「ニュー・ニューノーマルの世界」とは、ニューノーマルの世界よりも一段と厳しい局面であり、「時限爆弾のスイッチが入り、負け組企業の消滅リスクが高まった状態」だとしている。
デジタルガレージのCEO林 郁氏は2020年5月13日の決算説明会において、「今回のパンデミックが世界規模で『生活、経済、教育、医療』などのさまざまな領域にわたり、地滑り的なDX(デジタルトランスフォーメーション)化を引き起こすと確信します」と述べた。このことは、キャッシュレス決済の一翼を担う同社のみならず、金融サービス業全般にあてはめられることだという。
既に、メガバンクや大手地方銀行は、(1)インターネットバンキング/スマートフォンアプリの強化、(2)AIやRPAによる業務効率化、(3)支店事務や営業活動におけるデジタル端末の活用などで、デジタライゼーションを進めてきている。2020年度から新たな中期経営計画をスタートさせる金融機関では、デジタライゼーションの推進を最重要テーマに位置付けているところが多いのだという。
海外の事例を見ると、オランダのING Bankはモバイルバンキングを拡大させている。2019年には同行を日常的に利用する「アクティブ顧客」の37%がモバイル取引のみの顧客となっている。この比率は2014年が4%、2016年が12%で、モバイルバンキング取引のみの顧客は順調に増加している。
また、英国のMonzo Bankなど、ミレニアム世代以下の若い世代を主な対象に、金融サービスをスマートフォンで提供する「ネオバンク」の台頭も顕著だという。足元の口座数は419万口座(2020年5月時点)と若い世代の顧客から支持を獲得している。
国内でもシェア上位行を中心にインターネット専業銀行が、個人顧客の強い支持を集めている。住信SBIネット銀行の口座数は約400万口座、預金残高は約5.5兆円に上り(2020年4月末時点)、欧米のネオバンクに引けを取らない顧客基盤を築いている。
PwCアドバイザリーはこうした動きは不可逆的なものであり、コロナショックを契機に「モバイル、キャッシュレス&コンタクトレス」の動きが加速すると見解を示した。
その中で、既存の金融機関が留意すべき点は、第一に、顧客の金融ニーズが主役であり、金融サービスは裏方であるということ。金融機関の視点に立てば、金融サービスとマーケティングの融合と言い換えられる。その下では顧客視点に立ったUI(ユーザーインターフェース)が決定的に重要になるという。
第二に、既存のサービスとの共食い(カニバライゼーション)や撤退は避けられないということ。COVID-19拡大を契機に、キャッシュレス決済の普及、金融商品販売のリモート化(オンライン化)、支店・ATMネットワークの再構築など、以前は手を付けられないと考えられていた伝統的な金融サービスの提供方法の見直しが進むことが考えられる。手近な具体例としては、感染予防の観点から、ATMの生体認証方法はコンタクトレス化されると、見解を示す。