日本の社長・CEOの報酬総額(対象企業は下表記載)の中央値は、1.3億円(前年比▲3%)。これに対して、米国は16.2億円(前年比+3%)と各国の中でも抜きん出た水準となり、日米格差は前年の11倍から12倍へと広がった。欧州では英国で、5.0億円(前年比▲14%)、フランスでは4.5億円(前年比▲18%)、ドイツでは6.9億円(前年比+8%)となっており、日欧差は4.2倍となった。英国・フランスでは、新型コロナウイルスによる配当減や株価の急落に伴う影響等により、賞与や株式報酬といった変動報酬が昨年と比較して大きく落ち込んだ。
新型コロナウイルスにおける役員報酬減額に関する調査結果
新型コロナウイルスの影響により、役員報酬を減額する企業が増加している。7/10時点では、206社が経営トップの役員固定報酬の削減を実施。中でも外食等の小売業(60社)、もしくはエンターテインメント関連を中心とするサービス業(48社)で、減額開示を行う企業が多い。
経営トップの固定報酬減額率は、「30〜40%未満× 3 カ月減額」とする企業が最も多い。
金融危機時との比較
新型コロナ危機を受けた役員報酬の減額開示ペースは、7月10日時点では、2008年のリーマンショック時と同程度の状況となっている。金融危機時には最終的に762社が役員報酬削減の開示を行った。新型コロナ危機の影響が今後どの程度長期化するかは不透明であるが、リーマンショック時を超える可能性も考えられる。
デロイト トーマツ グループ パートナー 村中靖氏は、以下のように調査結果のポイントを述べている。
日本国内の大手企業を中心に業績連動報酬・株式報酬を導入する企業が増加している。また一部の企業では、欧州並みの報酬水準となる役員も増加傾向にある。しかし、調査結果の通り、同様の企業規模(中央値)で比較した場合、依然として欧米の報酬水準とは大きな差があることが見て取れる。また日本の報酬構成における固定報酬・変動報酬の比率は、当社サーベイの調査結果では、固定報酬が57%と高い。2018年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂を受け、株式報酬の導入は引き続き増加しており、これに伴って、各社の(制度上の)変動報酬比率は更に高まることが予想される。
引き続き、『役員報酬サーベイ(2020年度版)』の実施を通して、引き続き日本企業の報酬水準・報酬構成の変化を追っていきたい。
役員報酬の減額は、外食・サービス業等を中心に手元資金の確保や経営責任の明確化、一時帰休等を経験した従業員との痛みの共有が主な理由となっている。一部の企業では、少しずつコロナ禍の影響が緩和されつつあるが、多くの企業では依然として経済への深刻な影響は続いている。このため今後も一定程度、役員報酬を減額する企業は増加すると見込まれる。なお、役員報酬の固定報酬減額を実施している米英でも、減額幅の中心は、日本とほぼ同様の20-40%減となっている。
また今回の調査報告には含まれていないが、業績連動報酬(例:役員賞与や株式報酬等)を目標の達成状況に応じて削減する企業も今期は増加すると見込まれる。
直近1-2年で報酬(諮問)委員会を設置する企業が増加しているが非常時の時こそ、第三者として客観的な視点を持つ報酬委員会の役割が重要だ。従業員やサプライヤーなど、多様なステークホルダーの状況を踏まえ、役員だけが優遇されると受け止められることのないよう、様々な視点を考慮した検討が必要となる。特に、報酬水準の妥当性や目標達成状況と報酬の関係性については丁寧な説明が求められるだろう。
役員報酬サーベイ(2019年/20年度版)について
2002年より実施している『役員報酬サーベイ』は、日本企業における役員報酬の水準、役員報酬制度の導入およびコーポレートガバナンスへの対応状況の実態をまとめている日本最大規模の調査。2019年度版は2019年7月~9月にかけて三井住友信託銀行と共同で実施し、東証一部上場企業を中心に928社から回答を得たもの。なお2020年版サーベイは、2020年6月15日(月)~7月31日(金)までを参加企業募集期間としており、10月中旬頃に報告書を提供する予定。
役員報酬サーベイ(2019年/20年度版)について
- 調査期間 :2019年7月~2019年9月
- 調査目的:日本企業における役員報酬の水準、役員報酬制度やガバナンス体制、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況等の現状に関する調査・分析
- 参加企業数:928社(集計対象役員総数 17,052名)上場企業901社(うち東証一部614社)、非上場企業27社
- 参加企業属性:製造業412社(うち医薬品・化学90社、電気機器・精密機器89社、機械63社等)、非製造業516社(うちサービス105社、情報・通信101社、卸売83社 等)