一部の企業に囲われていたモビリティデータの“民主化”が始まった
「モビリティデータ」は、既に身近なところで活用されており、私たちの便利で安心な生活を支えています。たとえば、カーナビや経路検索に活用される渋滞情報や公共交通機関のリアルタイムの運行状況など、私たちの生活を支える情報として活用されています。また、物流業界のトラックに搭載される「デジタコ(デジタルタコグラフ)」から収集される移動のデータは、交通安全対策や労務面での安全管理の徹底に活かされています。
これだけを見るとモビリティデータは社会に浸透しているように見えますが、“データ活用”という意味では、ユーザーにとって近くて遠い存在です。
自動車関連企業やインフラ企業といった一部の企業がデータを活用したサービスを展開しているものの、一般に自分自身のモビリティデータを意識して活用するような機会はほとんどありませんでした。普段の生活やビジネスを行う中で、モビリティデータを意識して考えたこともなければ、データを見たことさえないという方が大半ではないでしょうか。モビリティデータの扱いに慣れていることは珍しく、“モビリティデータの活用”は、一部企業が半ば独占的に行っている状態だと言っても過言ではありません。
データ活用の分野では、競争領域として秘匿化することで競合優位性を高められるようなデータは、個社での管理や囲い込み戦略が有利とされています。一方で、誰にでも収集可能なデータや、それ自体が競争力に直接つながらないデータ、他社との連携で革新が見込まれるデータについては、オープン化することでイノベーションを起こしていくという考え方が主流となりつつあります。
そして、モビリティデータの活用も後者のデータとして、MaaSやCASEの盛り上がりと共に民主化が進みつつあります。従来のモビリティ産業以外のプレーヤーが異業種から参入していることが、その象徴です。
Googleの「Android Auto」やAppleの「CarPlay」など、世界中に普及しているOSをベースにした、車のスマートフォン化やスマートフォンとの連携が進んでいます。また、スマートフォンのアプリによって、MaaSやコネクテッドの世界観の一部がユーザー体験として実現されています。従来のモビリティ産業以外のプレーヤーが、移動情報を中心にモビリティ関連のデータを収集し、データを活用したサービスを提供しながら、コネクテッド時代のユースケースを創出しています。特にUberやDiDi、Grabなど、CASEの“S”(Shared & Services:シェアリングとサービス)のサービスプレーヤーは、国によっては人々のライフスタイルを刷新する勢いで成長しています。
IT企業の参入や、異業種との共創によって、これまで特定のプレーヤーに閉じていたモビリティデータが民主化され始めているのです。