デロイトは、第四次産業革命が引き起こす経済社会の大きな変化の渦中にある経営者の意識を、グローバル規模で継続的に調査している。今年の調査では、新型コロナウイルスの感染拡大により企業経営をとりまく不確実性がさらに増大する中で、危機的状況からの回復力だけでなくコロナ後の「ベターノーマル」の道を切り開いていける組織を「レジリエンス」を備えた組織と捉え、その特性を探求することに主眼を置いている。
調査結果によると、経営者の多くは、社会に甚大な影響を与えるディスラプションが今後も発生すると捉えていた。新型コロナウイルスの感染拡大に匹敵する規模のディスラプションが、近い将来に一定以上の頻度で発生することを予想する経営者は、世界・日本共に6-7割に上っている(図表1)。特に、気候変動に起因するディスラプションの可能性に注目が集まっており、世界および日本の7割以上の経営者が気候変動の影響の大きさは、コロナ危機と同程度、またはそれ以上と捉えている。
世界の経営者は、コロナ危機への対処で自社のディスラプションへの対応能力に自信を無くしてはおらず、「2020年中」に自社が「ディスラプションをもたらす出来事に対して迅速に順応/方向転換できた」と回答した経営者の割合は、「2020年以前」を振り返った自己評価と比べて2ポイント高い69%だった。その一方で日本では、同割合が「2020年以前」に比べて「2020年中」で9ポイント低い50%にとどまっている。
デロイトは、レジリエンスのある組織は順応性や協働といった性質と共に長期的かつ革新的なマインドセットや文化を有していると特徴付けている。その上で、不慮の事態に備えながら変革を行うために、長期と短期の異なる時間軸の経営を可能とする複眼的な視点を必要としている。しかし、短期的な優先事項と長期的な優先事項のバランスについて「上手く/非常にうまくとれている」と回答した経営者は、日本では44%となり、世界(54%)に比べて10ポイント低い結果だった(図表2)。
今後10年間で企業が取り組むべき最も重要な社会課題については、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響拡大を受け、「医療と病気の予防」が世界、日本共に上位となった。日本と世界の経営者の回答の差異を見ると、「気候変動と環境の持続可能性」と「既存制度や規範に基づく偏見と不平等」の日本の経営者の関心が世界に比べ低く、世界ではほぼ半数の経営者が「気候変動と環境の持続可能性」を重視していることが分かった。日本政府が2050年までに二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)への政策目標を表明したのはこの調査の実施後で、現在は日本の経営者の関心も高まってきていると予想している。また、「既存制度や規範に基づく偏見と不平等」については、海外では女性権利運動(Me Tooなど)や人種差別撤廃運動(Black Lives Matterなど)といった社会運動が展開されたことから、企業としても取り組むべき重要課題と世界の経営者は捉えているとみている(図表3)。