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AI時代を生き抜くテルモの戦略──ペイシェント・ジャーニーを事業開発の羅針盤とし、変革のDNAに倣う

【後編】ゲスト:テルモ株式会社 代表取締役社長CEO 鮫島光氏

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 前編に引き続き、2024年4月に医療機器メーカー・テルモ株式会社の社長CEOに就任した鮫島光氏と、JIN代表理事の紺野登氏との対談をお送りする。後編の話題は、これからのテルモについて。100年以上、日本の医療機器産業を牽引してきたテルモの次なる戦略、そして目の前に立ちはだかる課題とは。

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AI時代にテルモが描く理想のヘルスケア

紺野登氏(以下、敬称略):組織の将来像についてもお聞きします。特に、祖業である体温計や注射針を扱うメディカルケアソリューションズの領域は鍵になりますね。これをどのようにアップデートしていくのかをお聞かせください。

鮫島光氏(以下、敬称略):おっしゃる通りで、テルモは1921年に体温計の国産化を目的に創業しました。1960年代に使い切りの注射器や血液バックなどを手掛けたことをきっかけに総合医療機器メーカーとして多角化を進め、現在は、3カンパニー8事業と幅広いポートフォリオを構築しています。祖業である体温計をオリジンとするメディカルケアソリューションズは歴史も長く、その意味でアップデートの必要性も高い領域だと言えます。

 メディカルケアソリューションズでは、2022年にブランドを刷新した際に、ブランドプロミス「Quality time for better care」を掲げました。単に製品を高度化させるのではなく、患者さんや医療従事者の皆さんに「質の高い時間(とき)」をいかに届けるか。その点に着目して、事業をアップデートしていくつもりです。

紺野:患者さんにとって「質の高い時間」は素晴らしい価値ですね。そこでは、AIなどのデジタル技術の活用がカギになりそうです。

鮫島:おっしゃる通りですね。一つの例としては、IT機能を搭載した投与システム「スマートポンプ」が軸になると思います。スマートポンプは院内のITシステムなどと連携して、輸液や薬剤の投与を自動化する製品です。

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画像提供:テルモ株式会社「スマートポンプ」

 現在は、薬剤管理の厳密化や医療従事者の業務効率化に役立つツールとして利用されていますが、将来的にはスマートポンプで収集したデータを解析して、医療行為に活用できるのではないかと考えています。患者さんの状態をもとに、最適な薬剤投与タイミングや投与量を自動的に調整するといったイメージですね。

 また、原料血しょう採取システムへのデジタル活用も視野に入っています。テルモでは血しょう分画製剤の材料となる原料血しょうを採取するシステムを提供しているのですが、そのシステムで採取に関するデータをログとして収集しています。このログが何に活用されるかというと、血しょう採取の効率化です。

 昨今、日本に限らず世界中でドナーが不足しているので、できるだけ効率的に血しょうを採取しなければいけません。そこで、蓄積したデータを分析して、ドナーごとに最適な採取方法やオペレーションを提案する機能を構築したいと考えています。

紺野:ひところ、シリコンバレーを中心に「クオンティファイド・セルフ」というムーブメントがありました。デジタル技術を通じて自らの行動や状態を可視化し、いわば自身のデジタル・ツインのデータをもとにより良い生活習慣やライフスタイルを醸成するというものですね。テルモは、既存事業のアップデートを通じて、ヘルスケア領域におけるクオンティファイド・セルフを提供しようとしているのではないでしょうか。

鮫島:そうかもしれません。いずれにせよ、今後、医療の個別化はますます進んでいくでしょうし、活用できるデータ量も増えていくでしょう。バイタルデータや投薬履歴、治療履歴のほかに、最近では遺伝子情報の活用も進んでいます。

 もちろん、今現在、これらのデータを縦横無尽に活用できるのかといえばそうではありません。セキュリティや個人情報保護の問題は横たわっていますし、さまざまなステークホルダーと協議しながら壁を乗り越えていく必要があります。

 ただ、ここで、前編でお話したGrowth Mindsetが重要になると思っているんです。理想の世界を描くことと、理想に向けて行動することの間には雲泥の差があります。

 さらに、理想に向けて行動することと、「行動し続ける」ことの間にも大きな隔たりがある。こうした立ちはだかる大きな問題を乗り越えて、理想の世界を実現するためにも、高い目標に挑戦するGrowth Mindsetが不可欠だと思います。

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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