デジタルにより「飲んで終わり」だった治療の在り方が変わる
西野藍氏(以下、敬称略):小林さんと荒木さんは、それぞれの製薬会社にてデジタル事業に取り組まれています。その内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?
小林博幸氏(以下、敬称略):塩野義製薬では、デジタルを活用した新たな治療方法の追及や、バーチャル社員「シオノギカナデ(以下、カナデ)」による世の中への情報発信をはじめとした様々な新事業に取り組んでいるところです。
西野:カナデさんは普段どのような業務をされているのですか?
小林:カナデは2021年7月に誕生して以降、主にYouTubeを通じて皆さんに歌を届けたり、薬がどのようにして作られているのか紹介したり、そのほか様々な企画に挑戦したりしています。
西野:なるほど、ありがとうございます。では、デジタル事業についてもう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか? 製薬会社というと、多くの方は「飲んだり、打ったりするような薬を作る会社」というイメージだと思いますが……。
小林:まず、デジタルを活用した治療ですが、その一例としては手軽に使えるデジタルデバイスを提供して、症状の改善や病気の予防ができる治療方法を、国内で開発・提供していきたいと考えています。
例えば、弊社は米国のAkili(アキリ)というベンチャー企業が開発したアクションビデオゲームを用いた、デジタル治療の共同研究に着手しました。この治療の対象は小児(8~12歳)の不注意または混合型ADHD患者なのですが、特別なメカニズムを仕組んだあるゲームをすることによって、脳の特定の部分を活性化します。これにより、発達障害の症状が徐々に治っていくということが報告されたのです。そこで、この治療方法を日本でも展開しようという取り組みを進めています。
現在は、ADHDというと飲み薬で治療するのが一般的です。しかし、この新治療方法を含めた新たな選択肢を増やすことによって、一人ひとりの患者に適した情報や治療方法を提供することが可能になります。また、デジタルを活用することで、医者が患者の治療状況を常に可視化できたり、親が子どもの治療経過を簡単に把握できたりと、「飲んで終わり」というこれまでの治療とは違った価値の提供ができるはずです。