ガートナージャパン(以下、Gartner)は、2023年に企業や組織にとって重要なインパクトを持つ10の「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」を発表した(グローバルでは2022年10月17日に発表)。
2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドは、以下のとおり。
最適化する
デジタル免疫システム
現在、デジタル・プロダクトの責任を担うチームの76%が、売り上げ創出の責任も担うようになっているという。CIOは、リスクを軽減し、顧客満足度を高めながら高いビジネス価値を提供するために、チームで採用できるプラクティスやアプローチを模索している。そのような取り組みを後押しして貢献するのが、デジタル免疫システムだという。
デジタル免疫システムは、オブザーバビリティ(可観測性)、AI拡張型テスト、自動修復、カオス・エンジニアリング、サイト・リライアビリティ・エンジニアリング(SRE)、アプリのサプライチェーン・セキュリティを組み合わせ、システムのレジリエンスを最適化するもの。2025年までに、デジタル免疫システムに投資する組織では、ダウンタイムを最大80%削減し、これによって直接的に売り上げを拡大させるとGartnerでは仮説を立てているとしている。
オブザーバビリティの応用
オブザーバビリティの応用とは、ソフトウェア・エンジニアリングで注目されているオブザーバビリティをビジネスの最適化に応用すること。昨今のデジタル化されたビジネスの中で観測可能なデータには、ログ、トレース、API呼び出し、ユーザーのページ滞在時間、ダウンロード、ファイル転送の状況などがあるが、こうしたデータは、デジタル化されたアーティファクト(生成されたデータ)と呼べるものになるという。高度なオーケストレーション/統合のアプローチをビジネス・プロセス全体に適用し、データをプロセスにフィードバックすることで、オペレーションを最適化し、組織の意思決定を加速できるとしている。
オブザーバビリティの応用によって、企業は、ユーザーの行動データに基づき、適切なタイミングで適切なデータの戦略的重要性を高め、迅速な行動につなげられるようになる。これらを戦略的に用いることで、企業は競争優位を獲得。すなわち、企業にとってデータドリブンな意思決定の源泉となる。
AI TRiSM(AIの信頼性/リスク/セキュリティ管理)
多くの組織では、AIのリスクに対して十分な管理が出来ている状況ではない。米国、英国、ドイツで実施したGartnerの調査では、AIのプライバシー侵害やセキュリティ・インシデントを経験したことのある組織の割合が41%に上ることが明らかになったという。一方、AIのリスク、プライバシー、セキュリティを積極的に管理している組織は、AIプロジェクトの成果を向上させていることも分かった。そうした組織は、積極的に管理していない組織と比べ、より多くのAIプロジェクトを概念実証から実稼働に移行し、より多くのビジネス価値を達成していると述べている。
これからの企業は、AI TRiSM(AI Trust, Risk and Security Management: AIの信頼性/リスク/セキュリティ管理)の観点で、AIの確実性、信頼性、セキュリティ、データ保護といった新しい能力を獲得する必要があるという。その際、さまざまなビジネス部門から参加して、協力し合いながら継続的にAI活動全般を最適化する施策の実行が求められるようになるとしている。
拡張する
インダストリ・クラウド・プラットフォーム
インダストリ・クラウド・プラットフォームは、SaaS、サービスとしてのプラットフォーム(PaaS)、サービスとしてのインフラストラクチャ(IaaS)を組み合わせ、業種別に特化した利用しやすい機能群を提供することで、業界固有のビジネス・ユースケースをサポートする。企業は、差別化された独自のデジタル・ビジネス・イニシアティブを組み立てるための構成要素として、インダストリ・クラウド・プラットフォームパッケージを利用することで、アジリティ、イノベーション、市場投入までの期間短縮を実現しながら、ロックインを回避するようになるとしている。
2027年までに、企業の50%以上はビジネス・イニシアティブを加速させるために、インダストリ・クラウド・プラットフォームを使用するとGartnerでは予測しているという。
プラットフォーム・エンジニアリング
プラットフォーム・エンジニアリングとは、ソフトウェアのデリバリとライフサイクル管理を目的とした、セルフサービス型の企業内開発者プラットフォームの構築と運用に関する専門分野。プラットフォーム・エンジニアリングの目標は、複雑なインフラストラクチャを自動化し、開発者のエクスペリエンスを最適化することで、これによりプロダクト・チームによる顧客価値のデリバリを加速させられるという。
2026年までに、ソフトウェア・エンジニアリング組織の80%がプラットフォーム・エンジニアリング・チームを結成し、そのうち75%がセルフサービス開発者ポータルを取り入れるとGartnerは予測している。
ワイヤレスの高付加価値化
ワイヤレスにはさまざまなテクノロジがあり、特定のテクノロジが支配的になることはない。企業は、オフィスでのWi-Fiサービスからモバイルやデバイス向けの4G/5Gのサービス、低消費電力のLPWA、RFIDやNFCなどの近距離無線接続に至るまでの環境に対応するために、ワイヤレス・ソリューションを幅広く利用するようになると予測している。2025年までに、企業の60%は5つ以上のワイヤレス・テクノロジを同時に使用するようになるとGartnerは述べている。
これにより、ネットワークは純粋に接続を提供するだけの段階を超え、組み込まれた分析機能を使って知見を提供し、場合によってはネットワークから直接エネルギーを取得するようになるという。
開拓する
スーパーアプリ
スーパーアプリは、1つのアプリケーション内でアプリ、プラットフォーム、エコシステムの機能を組み合わせたもの。独自の機能を持つだけでなく、サードパーティ向けに、独自のミニアプリを開発/公開するためのプラットフォームも提供する。2027年までに、世界の人口の50%以上は、日常的に複数のスーパーアプリを頻繁に利用するようになるとGartnerは予測している。
スーパーアプリの実例は、モバイル・アプリが大部分を占めており。その特徴は、顧客や従業員が利用する複数のアプリを集約し、代替できるものに進化する点にある。重要なことは、特定用途のアプリの提供が、その利用者やそこでつながるデバイスから成る新たなエコシステムを形成することで、新たなビジネス機会へと発展させることだという。
アダプティブAI
アダプティブAIとは、開発当初には予測/利用できなかった実世界の環境の変化に迅速に対応するため、継続的にモデルを再トレーニングし、新しいデータに基づいて実行時や開発環境内で学習することを目的とした、進化するAIとして変化に適用させるアプローチ。これまでのAIでは限界のあった、変化への対応や限定的な学習機会を、自ら学ぶAIに進化させることで、より高度な自動化を目指すとしている。このため、アダプティブAIは、外部環境の急激な変化や企業目標の変化に最適化された対応が要求されるオペレーションに適しているという。
メタバース
Gartnerは、メタバースを「仮想的に拡張された物理的現実とデジタル化された現実の融合によって創り出される集合的な仮想共有空間」と定義している。メタバースは、継続的なイマーシブ・エクスペリエンス(没入感)を提供。デバイスに依存するメタバースでも、単一ベンダーが所有するものではなく、デジタル通貨やNFT (非代替性トークン)によって実現される、独立した1つの仮想経済圏を形成する可能性があるという。2027年までに、世界の大企業の40%以上は、Web3、ARクラウド、デジタル・ツインを組み合わせ、売り上げ拡大を目的としたメタバース・ベースのプロジェクトで使用するとGartnerは予測している。
持続可能なテクノロジ
持続可能なテクノロジは、環境、社会、ガバナンスの持続可能性をサポートするテクノロジのフレームワークであり、2023年の戦略的テクノロジ・トレンド全体に関連する。Gartnerの調査では、CEOは「利益」と「売上」に次いで「環境と社会の変化」が投資家の優先課題トップ3であると回答。経営幹部は、サステナビリティ(持続可能性)の目標を達成するために、ESGの要求に対応するテクノロジへの投資を拡大する必要があるという。
そのために企業には、持続可能なテクノロジの新しい枠組みが必要となる。企業自身が利用するITのエネルギーや資源の利用の効率化、トレーサビリティ/アナリティクス/再生可能エネルギー/AIなどの、テクノロジによる企業のビジネスに関わるサステナビリティの向上、企業の顧客が環境やソーシャル・サステナビリティを向上するためのITソリューションの提供、などがあるとしている。