富士通は、量子化学計算の問題に対して、量子コンピューティング技術とハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を組み合わせて自動的にハイブリッド計算する量子・HPCハイブリッド計算技術を開発した。
量子コンピュータやHPCのハードウェア層だけでなく、それらの上位層の各アルゴリズムまでを自動で組み合わせて最適計算を可能にする技術は世界初だと述べている。
同技術は、量子コンピューティング技術やスーパーコンピュータ「富岳」に代表されるHPC技術、量子インスパイアード技術「Fujitsu Quantum-inspired Computing Digital Annealer(以下、デジタルアニーラ)」などの次世代コンピューティング技術を結集。量子化学計算の問題に限らず、顧客の解きたい問題に対し、計算時間や演算精度、コストといった要件に応じて、AIが最適なコンピュータを自動で選択し演算できるソフトウェア構想「Computing Workload Broker」の先駆けとなるものだとしている。
39量子ビットの量子コンピュータシミュレータ(以下、量子シミュレータ)と富岳のCPU「A64FX」を搭載した「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700」を用いて、ユーザーの解きたい量子化学計算の問題に応じて、最適な計算手法をAIが自動で組み合わせて選択。これにより、利用者は専門的な知識がなくとも、解きたい問題に対して最適な形で量子シミュレータとHPC技術を利用可能になるという。
今後は、同技術の有効性検証やさらなる技術開発を通じて、高度なコンピューティング技術とソフトウェア技術を誰もが容易に利用できるサービス群「Fujitsu Computing as a Service(CaaS)」に適用するなど、誰もが専門知識を必要とせずに利用可能なコンピューティング基盤の開発を進めていくと述べている。
「Computing Workload Broker」とは
Computing Workload Brokerは、量子化学計算の分野に限らず、利用者が解きたい問題に応じて、大規模なHPCクラウドや量子コンピューティング、デジタルアニーラ、量子シミュレータなど、利用者のニーズに合った適切な計算資源をAIが自動で選択し、専門知識なしに高速かつ高精度な演算を可能にするソフトウェア構想。複数のハードウェアデバイス単位の計算処理最適化や、プラットフォーム単位の計算配分最適化などの自動化をサポートするため、利用者の解きたい問題に応じて高速に計算する環境を実現するという。
量子・HPCハイブリッド計算技術とは
創薬や新材料開発で利用される物質の特性を計算によって明らかにする量子化学計算の分野において、Computing Workload Brokerの先駆けとして、量子シミュレータとHPCの2種類のコンピュータを自動で最適に組み合わせて高精度と高速性を両立して計算する量子・HPCハイブリッド計算技術を開発。
従来の技術では、1つの計算アルゴリズムの中で、量子コンピュータやHPCといったハードウェア層の手段を組み合わせるだけに留まっていたのに対し、今回の技術ではそれを拡張し、量子アルゴリズムやHPCアルゴリズムといった、より上位層で複数のアルゴリズムを自動的に組み合わせた。
同技術の特徴は以下のとおり。
1. 量子・HPCアルゴリズム判別技術
量子化学計算で用いられるアルゴリズムでは、精度の高い解を得るまで何度も反復計算する必要があり、原子間の距離の変化に伴い、量子、もしくはHPCのどちらのアルゴリズムが最適なのかを適切に判断できない課題があった。今回、分子に対するアルゴリズムの収束の様子を分析することで、どちらのアルゴリズムを用いると精度が高いかを推定可能な技術を開発。HPCアルゴリズムが精度的に不得意とする問題では、アルゴリズムが解を算出するまでの収束状況に特定のパターンが検出されるため、問題に対して試験的にHPCアルゴリズムで前処理を実行することにより、最適なアルゴリズムの判別が可能となる。
2. 計算時間推定技術
量子化学計算では、無数に存在する分子構造ごとの収束性の正確な推定が難しく、事前に精度の高い解を得るための時間や費用の見積りが困難なことが課題であった。そこで、独自に開発を進めている適応型AI技術を用いて、分子構造とアルゴリズムの反復計算と計算時間の関係性を学習することで、事前に計算量を推定可能なAIモデルを構築。精度の高い解が得られるまでの計算量をもとに、必要な時間や費用の算出を実現した。
上記2つの技術により得られた量子・HPCアルゴリズムの判別情報や、推定の計算時間と費用に加え、計算資源の使用状況も加味することで、利用者が望む計算時間や費用に応じて量子化学計算の性能を最適化できるという。
これにより、利用者は、量子・HPCといった計算資源を意識せずに、自身の要望に最も沿う形で、量子化学計算の問題を解くことが可能になるとしている。