「顧客に聞かない」商品開発が成功する意味とは?
大ヒットしているバルミューダの「ザ・トースター」をご存知だろうか。実売価格で2万5000円、スチームと温度制御によって、家庭で段違いに美味しいパンが焼ける商品だ。機能や価格でいえば常識外れで、大手家電メーカーに作れないはずはないが、高級家電というより、ルクルーゼの鍋のような美味しい食事のためのキッチンツールというコンセプトが「こういうものが欲しかった」という高感度な消費者の潜在的な気持ちに合致した結果だろう。
経営方針に「顧客志向」を掲げる企業は多い。文字通りに受け取れば、顧客の望んでいることを正確に理解し、商品やサービスでそれに応えていくということになる。ただ具体的に顧客の何をどう理解するかについての認識は意外とばらばらだ。顧客に聞いたことをそのまま鵜呑みにしても、あてが外れることは少なくない。逆に、2万5000円のトースターというアイディアは顧客に聞いてもまず出てこないだろう。
いま最も注目されている経営者のひとりであるネスレ日本の高岡浩三社長は、市場調査に否定的なことでも有名だ。消費者の気がついている問題の解決は比較的簡単だが、重要なのは消費者自身も気づいていない問題を知ることだと言う。アンケートやインタビューで簡単にわかるようなニーズで商品を開発したり、プロモーションを企画したりするのでは差別化にならないし、消費者は話したとおりに行動するわけでもない。企業は顧客の顕在的、潜在的ニーズの両方を理解し、それにあった対応をとる必要がある。
またイノベーション論で有名なクレイトン・クリステンセン教授も、顧客理解の重要性を説いている。 ただし顧客は誰かとか、どんな属性かではなく、知るべきは顧客のこころにある「なんとかしたいこと(JTBD=Jobs To Be Done)」であるとする。商品やサービスはJTBDのために「雇う(hire)」ものであり、顧客の深層にフォーカスすることでイノベーションの種を発見することが可能だという。