大企業の新規事業を阻む「優等生の罠」
川下和彦氏(以下、川下):冨田先生の著書『脱優等生のススメ』は、私が何度も読んでいる一番好きな本です。「優等生がAIに置き換わる時代をどう生きるか」というテーマは、多くの企業が直面している課題そのものだと感じています。実際、多くの企業の方と事業開発をご一緒していると、皆さん口を揃えて「教科書どおりに進めてもうまくいかない」とおっしゃいます。「リーンでスタートする」などの手法は取り入れているのに、なぜか壁にぶつかる。私はその原因の1つが、大企業の「採用」にあるのではないかと考えています。
冨田勝氏(以下、冨田):確かにそうですね。大企業の採用プロセスは、1次、2次、最終面接と進むにつれて、面接官がどんどん変わっていきます。すると、全員が「合格」を出すような、誰が見ても優秀で非の打ち所がない「360度優秀な人」ばかりが残ります。結果、社内は優等生だらけになってしまう。
川下:確かに、どこに出しても恥ずかしくない「ザ・優等生」が集まっている印象です。
冨田:優等生の最大の特徴は「減点を嫌う」ことです。テストは満点が上限で、そこから間違えるごとに引かれていく「減点法」の世界で生きてきたからです。これが仕事になると、「失敗しないこと」が最優先になります。「リスク分析はできているか」「メリット・デメリットを可視化しろ」と、石橋を叩いて渡るように膨大なエネルギーを使う。しかし、確認して「これなら大丈夫」と先が見えた時点で、それはもはやブレイクスルーではありません。誰もが「無理だ」と言うことをやるからこそイノベーションなのに、優等生ばかりの組織ではそれが構造的に起きにくいのです。
「パルプンテ採用」で異能を見出す
川下:優等生の同質化を防ぐために、私が面白いと思ったのが「パルプンテ採用」というアイデアです。ゲームの呪文のように「何が起こるかわからない」枠を作る。冨田先生は大学入試で「AO入試(総合型選抜)」を推進されてきましたが、これに近い感覚でしょうか。
冨田:まさにそうです。AO入試の基準をよく聞かれますが、そもそも一律の基準なんてありません。「この人と一緒に研究したいか」、それだけです。これは言ってみれば「オーディション」なんです。
川下:確かに、基準を聞きたがる姿勢こそが優等生の発想かもしれませんね。
冨田:たとえば、テレビ番組の『博士ちゃん』に出てくるような、エジプトのミイラのことだけを朝から晩まで考えているような子がいますよね。彼らの熱量は凄まじい。でも、大人は「そんなことよりテスト勉強しなさい」と言って、彼らを“凡人”にしてしまっている。企業も同じです。学歴や偏差値という「点数」ではなく、「本当にこれが好きでたまらない」という偏愛や、異質な何かを持っている人を採る。そういう人材は、これまでの評価軸では測れません。だからこそ、9割は組織を回すための優等生を採用するとしても、残りの1割は訳のわからない「やんちゃな人材」を採る枠を持つべきなんです。
