営業出身者が事業コントローラーとして開眼する
池側千絵氏(以下、池側):ユニ・チャームは、日本企業の中でも非常にユニークかつ先進的なFP&A組織を構築されています。まずは、多田さんと入江さんのこれまでのキャリアと、現在取り組まれている業務にそれがどう生かされているかなどをお聞かせください。
多田知弘氏(以下、多田):私は2000年に新卒で入社し、最初の9年間は営業本部の福岡支店でのルート営業や全国の大手チェーンを担当していました。転機となったのは、当時の上司からの「お前は売上を上げるのは得意だが、利益感覚がない」という厳しい言葉です。当時は「利益は売上から費用を引いたもの」という程度の認識しかなく、衝撃を受けました。
そこから一念発起し、社内公募制度を利用して、利益の構造が最も深く理解できる部署を希望しました。2009年に現在のFP&Aの前身である事業推進室へ異動したのがはじまりです。その後、フェミニンケア、ウェルネスケア、ペットケアなど多岐にわたるカテゴリーの事業コントローラーを歴任してきました。特にウェルネスケアからペットケアへ異動した際、一から業務フローを構築した経験が、現在の組織運営の原体験になっています。
2000年入社。営業本部福岡支店でのルート営業を経て、2009年に企画本部へ異動。フェミニンケア、ウェルネスケア、ペットケアなどの事業コントローラーとして、各事業の収益改善に貢献。2022年より現職。現場主導型のFP&A組織の構築とグローバル展開を牽引している。
池側:営業の第一線にいた方が、自ら手を挙げてFP&Aの世界へ飛び込んだのですね。入江さんはいかがでしょうか。
入江彰彦氏(以下、入江):私は1987年入社で、同じく営業からキャリアをスタートしました。「事業本部制」への移行後の2000年に営業スタッフからコントローラーに配属されました。当初は「原価って何ですか?」という状態でしたが、事業をマネジメントする面白さに目覚め、以来20年以上、ベビーケアやウェルネスケアなどの主要事業でコントローラーを歴任してきました。現在は、役職定年を機に、後進を育てるための「教育担当」として専任で活動しています。
1987年入社。営業・マーケティング部門を経て、2000年より20年以上にわたり多岐にわたる事業のコントローラーを歴任。豊富な実務経験を「形式知」化し、現在は専任の教育担当として、新任FP&Aの育成プログラム「入江塾」の運営に尽力している。
グローバル化する経営環境、FP&A組織の戦略的変遷
池側:ユニ・チャームは現在、世界約80の国と地域で事業を展開し、圧倒的なグローバル化を実現されています。まずはその経営の状況と、FP&A組織の変遷について詳しくお聞かせください。
多田:当社の成長スピードは非常に速く、2023年には海外売上比率が約66%に達しました。2007年時点では国内売上が3分の2を占めていましたが、現在は完全に逆転しています。ベビーケア、フェミニンケア、ウェルネスケア、ペットケアといった各カテゴリーでアジア市場を中心に高いシェアを誇っており、2024年は時価総額約2兆4,259億円規模、売上高9,890億円、コア営業利益1,385億円と優良な財務体質を維持しています。
この急拡大するグローバル経営を支えるため、FP&A組織も進化を遂げてきました。2018年以前は企画本部内の一組織に過ぎず、各事業部のコントローラーは事業側に所属する「分散型」でした。しかし、意思決定の質とスピードを全社レベルで引き上げるため、2022年に大きな組織改編を行いました。全てのFP&A機能をCFO(経理財務本部)配下へ集約し、組織としての独立性と専門性を高めたのです。
その際、データの収集・加工を専門に行う「コントロールセンター」を継続して機能させました。これにより、各事業部のコントローラーは煩雑な集計作業から解放され、より高度な「分析」や「意思決定支援」に集中できる体制が整いました。外資系の手法をそのまま取り入れるのではなく、自社の成長痛と向き合いながら、必要に応じて戦略的にでき上がったのが現在の「ユニ・チャーム流FP&A」なのです。
