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ENEOSが挑む、ROIC経営を加速させるFP&A組織──立ち上げ背景にあったPBR1倍割れの危機感

ゲスト:ENEOSホールディングス株式会社 田中聡一郎氏、ENEOS株式会社 開沼公雅氏

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 エネルギー業界のリーディングカンパニーであるENEOSが、大きな変革の舵を切っている。2025年4月、同社は経理部内に「FP&A(Financial Planning&Analysis)」組織を新設。従来の管理会計の枠を超え、経営の意思決定と事業部による改善アクションを支援する体制を構築した。長期にわたったPBR1倍割れから脱却しつつある現状を背景に、資本効率を重視した「ROIC(投下資本利益率)経営」を全社に浸透させるのが狙いだ。かつてのスリム化された経理部門から一転、「価値を生む組織」へと再定義されたFP&A。ホールディングスCFOの田中聡一郎氏と、実務を牽引するFP&A室長の開沼公雅氏に、FP&Aアドバイザーの池側千絵氏がインタビューし、その戦略と覚悟に迫った。

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ENEOSグループの経営環境と次期中期経営計画

池側千絵氏(以下、池側):まずは、貴社の事業規模と、現在策定されている2025〜2027年度の中期経営計画について、田中CFOから概要を解説いただけますか。

田中聡一郎氏(以下、田中):当社は、ENEOSなどを事業子会社に有する持ち株会社です。グループの中核事業会社であるENEOSは、国内の燃料油販売で約50%という圧倒的なシェアを持つ国内最大のエネルギー企業です。連結売上高は約12.3兆円(2024年度)、連結従業員数は4万人を超える規模に達しています。主要な事業セグメントは石油製品の精製・販売を行う「基盤・素材」をはじめ、石油・天然ガス開発、機能材、電気、再生可能エネルギーと多岐にわたります。

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ENEOSホールディングス株式会社 代表取締役 副社長執行役員 CFO 田中聡一郎(たなか・そういちろう)氏
経理、企画、財務、IRの各セクションを歴任し、グループ全体の財務戦略を統括。PBR改善とROIC経営の浸透を最優先課題として掲げ、FP&A組織の立ち上げを主導した。

 最新の中期経営計画(「ENEOSグループ 第4次中期経営計画2025 - 2027年度」)では、「筋肉質な経営体質への転換」を最優先課題に掲げています。具体的には、既存事業の収益最大化とエネルギートランジションへの挑戦を両立させ、2027年度に在庫影響除き営業利益5,000億円、ROIC 6.0%以上、ROE 10%以上の達成を目指しています。また、資本市場へのコミットメントとして、総還元性向50%以上、30円/株配当を起点とする業績に応じた累進配当、2040年度にはROE 15%を目指すという野心的な長期ビジョンを描いています。

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図版出典:ENEOSホールディングス株式会社「ENEOSグループ 第4次中期経営計画 (2025 - 2027年度)」より

池側:国内石油市場で圧倒的な規模を持つ一方で、「低炭素・脱炭素」に向けた動きは足元で停滞気味であるものの、長期的にはシフトしていく動きは継続していますね。

田中:おっしゃる通りです。国内の燃料油需要は1999年をピークに年率約2%のペースで減少を続けており、直近15年ほどで国内市場は40%も縮小しました。このような需要減少が確約された経営環境下では、従来の「売上至上主義」はもはや通用しません。

 また、化石燃料に依存する構造からSAFに代表されるバイオ燃料、長期的には再生可能エネルギーといった「低炭素・脱炭素事業」へポートフォリオ転換を進める必要があります。海外の成長を取りこむ観点から、海外への事業展開を進める必要も感じています。この「稼ぐ力の最大化」と「戦略的投資」を両立させるためのナビゲーターこそが、2025年4月に経理部内に新設したFP&A組織なのです。

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図版出典:ENEOSホールディングス株式会社「ENEOSグループ 第4次中期経営計画 (2025 - 2027年度)」より

背景にあったPBR1倍割れへの危機感

池側:現在の中計の達成に向けて、2025年4月にFP&A組織を組成されています。きっかけなどをお聞かせください。

田中:最大の要因は、長期にわたるPBR1倍割れ(0.5〜0.6倍程度)という資本市場からの厳しい評価に対する強い危機感です。これは、当社の資本効率の低さに加え、将来の成長性に対する投資家の懸念が具現化したものでした。

 これまでは「黒字であればいい」という、資本コストを度外視した経営感覚が現場に少なからず残っていました。しかし、市場からPBR1倍割れという「解散価値基準以下」と評価されている状況は、当然ながら放置できませんでした。足元1倍を超えることができ、さらなる改善に取り組んでいます。既存事業の収益力を「搾り出す」レベルまで高め、そこから生み出されたキャッシュを成長事業へ再投資するサイクルを確立するために、全社に「ROIC」という共通言語を浸透させる必要がありました。

開沼公雅氏(以下、開沼):当社は管理会計機能が各部に分散しており、報告される数字の定義や集計方法もバラバラな感がありました。これでは変化の激しい時代に迅速な意思決定を行うことは困難です。そこで、経理部内に合計20名体制(FP&Aグループ9名、予算グループ10名、室長1名)のFP&A室を設置し、ROICの観点から全社に管理会計の横串を刺すことを目指しています。事業の主役である各事業部とFP&Aが連携して、見える化の深化、課題抽出、打ち手の提言を行います。

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ENEOS株式会社 経理部 FP&A室長 開沼公雅(かいぬま・きみまさ)氏
2005年入社。財務会計を中心にキャリアを積み、ENEOSマテリアルなどへの出向で管理会計を主とした経験を経て、2025年4月より現職。HDと事業会社の兼務を通じ、現場に即した経営管理体制の構築とコスト削減、ROIC経営の推進を担う。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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