なぜ医療DXは進まないのか。立ちはだかる特有の“壁”の正体
──デジタルガレージとりそなグループは、医療機関での会計をオンライン決済できる「CurePort」を提供しています。まずはこのサービスの開発に至る経緯をお聞かせください。
小原由記子氏(以下、小原):CurePortの開発の起点には、医療業界が長年直面していた課題がありました。国民医療費の増大や医療業界の人手不足が進むなかで、医療現場の効率化は喫緊の課題です。そのためにも、医療DXは欠かせませんが、医療業界には推進にあたって考慮すべき固有の特徴があります。
それは「医療はユニバーサルサービスである」という点です。つまり、医療サービスを受けるのは、世代や属性を問わないあらゆる人々であるため、他の業界のようにターゲットやセグメントに基づいて施策を展開することが容易ではありません。そのため、ITに不慣れな方も含め、誰もが利用できるサービス設計が求められることから、一律にデジタル化を進めることが難しい構造があります。
また、「医療サービスは、公定価格で提供されている」という点も壁になっています。公的保険制度により提供される医療サービスは提供価格が公的に決められているため、医療機関が自由に価格を設定することは原則としてできません。そのため、DXに伴うコストを価格に転嫁することが難しく、投資回収の見通しが立ちにくいという課題があります。結果として、デジタル投資の資金回収が困難で、多くの医療機関がDXに二の足を踏む要因になっています。
その一方で、医療DXは社会からの強力な要請でもあります。たとえば現在、国は「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、「全国医療情報プラットフォーム」の創設を推進するなど、医療機関のデジタル化を急速に進めています。また、この取り組みの一環として、従来はさまざまなITベンダーが提供していた電子カルテのデータ標準化も進められており、今後さらに医療DXに向けた環境整備は加速することが見込まれます。
こうしたなかで、デジタルガレージがこれまで培ってきた決済サービスの技術やノウハウを、医療DXの実現に役立てられないかと考えたのが、CurePortの開発のきっかけでした。
決済のデジタルガレージ×りそなグループ、強みを掛け合わせた「共同開発」
──りそなグループとの共同運営に至る経緯もお聞かせいただけますか。
小原:当初デジタルガレージでの事業構想の段階で、当時から資本業務提携の関係にあったりそなグループが類似のサービスを検討していることが分かりました。
デジタルガレージは国内最大級の決済プラットフォームを運営しており、2024年4月から2025年3月末の決済取扱高は7.5兆円にのぼります。さらに、数多くの決済サービスを開発・提供しており、システム開発や事業の立ち上げにもノウハウを有しています。
一方で、りそなグループは「リテールNo.1」の実現を掲げていることからも分かるとおり、大手金融機関のなかでも中小企業、個人のお客さまに強みを持っています。また、数多くの地方銀行と強固な連携体制を築いており、全国的な知名度や信頼度も有しています。
両社の強みを組み合わせれば、従来の医療業界の課題を解決する決済サービスを開発できるはずです。こうしたなかで、新たな決済サービスを共同で開発することが決まりました。

