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「SaaS Is Dead」は誤解──AI時代でもSaaSが“信頼のインフラ”として生き残る理由とは

登壇者:SmartHR 代表取締役CEO 芹澤雅人氏

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 AIが企業の競争優位を決定づける中、ソフトウェアの世界では「SaaS Is Dead(SaaSは死んだ)」という刺激的な議論が巻き起こっている。生成AIが自らコードを書き、自律的なエージェントが業務を代行する時代、従来のサブスクリプション型モデルは不要になるという主張だ。しかし、日本を代表するSaaSベンダー、SmartHRの芹澤雅人代表取締役CEOは、この悲観論に含まれる誤解を丁寧に紐解く。エンジニアとしての技術的洞察と経営者の市場観を併せ持つ同氏は、AIこそがSaaSの性能を引き出すブースターになると予見する。2月19日のメディア向け勉強会の内容に基づき、AI時代におけるSaaSの存在価値と、バックオフィス業務が向かうべき「System of Insight(洞察のためのシステム)」への進化を深く掘り下げていく。

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「SaaS Is Dead?」の4つの観点と3つの回答

 昨今テクノロジー業界を賑わせている「SaaS Is Dead」という言葉は、非常に主語が大きく、内実には多岐にわたる論点が混在している。

 芹澤氏はまず、この議論を解剖することから始めた。現在語られている主な懸念は、生成AIによる内製化が既製品の需要を奪う「内製化リスク」や、開発速度向上によるコモディティ化である。さらに、AIエージェントの台頭で従来の、ユーザー数に応じた「シートベース課金」が困難になることや、AIが操作を代替することでUIの価値が喪失するという指摘も存在する。

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資料提供:株式会社SmartHR/クリックすると拡大します

 しかし芹澤氏によれば、これらはSaaSを一括りにしすぎており、複雑な業務を担うビジネスソフトウェアには、AIに代替できない本質的価値が厳然として存在するという。

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資料提供:株式会社SmartHR/クリックすると拡大します

 その価値の第一は、SaaSが担う「データ入力装置」としての役割だ。

 AIはデジタル化されたデータの解読には驚異的な能力を発揮する。しかし、現実の企業活動において、アナログ情報をシステムへ書き込むプロセスの起点は依然として人間に依存している。特に人事労務のように入力項目が膨大で体系化された情報を扱う領域では、従来のフォームベースを超える効率的な手法は未だ確立されていない。

 つまり、情報の発生源を捉えるインターフェースとしての価値は、今後も残り続けるというのが同氏の見解だ。

 第二の価値は、内製化に伴う「コストと保守の限界」である。

 芹澤氏はエンジニアとしてAIによる開発効率向上を認めつつも、企業経営の力学に注目する。売上に直結する領域であれば内製化の意義はあるが、守りのシステムに貴重なエンジニアリソースを割き続けることは合理的ではない。

 ソフトウェアは一度作って終わりではなく、その後の保守や頻繁な法改正への追随コストが永続的に発生する。「作れても、持ち続けることが難しい」という保守運用の壁が、SaaS利用を正当化し続けるのである。

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資料提供:株式会社SmartHR/クリックすると拡大します

リスクの肩代わりと日本市場に横たわる「95%」の未開拓地

 第三の、かつ最も重要な価値が「リスクの肩代わり」だ。

 サイバー攻撃の激化を受け、セキュリティ担保への課題意識は極めて高い。AIが生成したコードで構築された自社システムで事故が発生した際、誰が責任を負うのか。法改正への対応漏れによるコンプライアンス違反のガバナンス責任はどうなるのか。法人としての説明責任が問われる業務において、専門ベンダーが最新のセキュリティと法適合を保証する価値は、単なるソフトウェアを超えた「信頼のインフラ」と言える。

 こうした議論に加え、日本市場固有の文脈も見落とせない。労務管理におけるSaaS普及率は未だ約5%に留まる。クラウド登場から10年以上経過しても、95%の企業が紙やExcel、旧来のオンプレミスシステムを使い続けている。

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資料提供:株式会社SmartHR/クリックすると拡大します

 背景には、バックオフィス業務が持つ「失敗が許されないインフラ」としての性質がある。給与計算のミスは従業員の生活を脅かし、労働争議やガバナンス不備といった甚大なリスクに直結する。

 この力学が既存オペレーションの維持を優先させ、AIへの急進的な置き換えに対するブレーキとして働いている。したがって、AIが進化しても「紙からクラウドへ」というDXの潮流自体が止まることはないと同氏は分析する。

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SaaSはAIによって「洞察を導くシステム」へ進化する

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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