8つにパターン化された「バグ(不具合)」の性質
問題解決に効く「行為のデザイン」をテーマとした本連載では、「行為のデザイン」の考え方やその思考プロセスについて詳しく述べてきた。その中で、人の行動に注目して、改善点を見つけて、より良くしていく「行為のデザイン」という手法において、人の行為を止めてしまう「バグ(不具合)」の発見が重要だということも指摘した。最終回となる今回は、そのバグについて掘り下げる。8つのバグの種類を紹介しながら、バグを解決したプロダクトやその視点を見ていきたいと思う。
1. 矛盾のバグ(コントラディクション・バグ)
これは、目的のために施したデザインが裏目に出てしまい、結局、目的を果たせなくなってしまうバグのことである。例えば、昔、飲食店でよく見かけたハエ取り紙。ハエのいない清潔な店内にしたいと置くものだが、ハエ取り紙がむき出しのままだと、捕まったハエがお客さまの目に触れてしまう。かえって、気持ちのよい空間とは言えなくなる。このように、日常の動きを見直すと、少し使いづらくても「こういうものだ」と思い込んで使い続けている行為が多数ある。
看護師の山本典子さんが立ち上げた「株式会社メディディア 医療デザイン研究所」からデザイン依頼を受けて、共同開発した点滴スタンド「feel」という商品がある。患者の治療に使う点滴スタンドは、本来なら患者に安心を与えるべきものなのに、点滴ボトルが直に見えたり、ステンレスの無機質さが冷たく感じられたりなど、逆に不安にさせる器具となってしまっていた。そのため、材質を木質に替えた北欧家具を思わせるデザイン性を高めるばかりでなく、子どもが落書きできるアイコン黒板で点滴ボトルを覆うなどの心理面にも配慮したところ、まさに、矛盾のバグを解決する商品となった。
2. 迷いのバグ(パープレキシティ・バグ)
目的に向かって行動しようとしているのに、迷いが生まれて動きが止まってしまうことを、「迷いのバグ」という。もっとも分かりやすい例に、エレベーターの開閉ボタンがある。エレベーターによって開閉のボタンが様々だったり、開閉の文字が一瞬読み取れずに迷ったりして、うっかり意図しないボタンを押してしまうという経験は、誰にでもあるのではないだろうか。漢字の代わりに▲で開閉を示すボタンは、さらに迷いを生じさせている。
その他にも、パーティーなどで受け取ったグラスをテーブルに置いたとたんに、どれが自分のものか分からなくなるという例もある。このバグを解消するために生まれたのが、「グラスマーカー」というマーキングのための商品だ。グラスの目印になるアイテムをつければ、すぐに「自分のグラス」と認識できる。さらに、ヨーロッパのパーティーで見かけたのは、受付時に吸盤でくっつくキャラクターマーカーを配布する方法だった。吸盤はしっかりとガラス面につくので、グラスを見失うことがない。12種類ほど、色とりどりのキャラクターも選べる。これは「間違いやすい」というバグを解消するだけでなく、ユーザーを楽しませる視点をうまく取り入れている。