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一人法務と組織法務に学ぶ、経営と事業部を動かすコミュニケーションの流儀

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生成AIの急速な浸透と暗黙知の形式知化

 テクノロジーの劇的な進化は、専門職である法務の働き方や役割にも大きな地殻変動を起こしている。

 約8ヵ月間の産休・育休を経て2026年初頭に現場復帰した飯田氏が最も驚愕したのは、社内における生成AI(文章や画像を自動生成する人工知能)の浸透スピードだった。休業前は「会話が成り立つチャットボット」程度の認識だったものが、復帰後には「業務をともに行うパートナー」として当然のように議論されていたからだ。

 特筆すべきは、飯田氏が休業前の準備(BCP:事業継続計画)として行った取り組みである。一人法務である自分が長期間不在にしても業務が停滞しないよう、過去の契約書に入れた修正コメントの意図や背景、判断理由をログとして徹底的にドキュメント化(言語化)しておいたという。

「自分の頭の中にあったノウハウをドキュメント化したことで、結果的にそれが社内AIの良質な学習データ(教材)になり非常に役立ちました」(飯田氏)

 個人に閉じていた「暗黙知」を「形式知」へと変換しておいたことが、AI時代の業務基盤として予期せぬ成果を生んだ好例だ。

 一方、組織として先端技術の活用を進める吉田氏は、マネーフォワードにおける具体的なAI活用事例を紹介した。同社では、複数のAIエージェントを組み合わせて事業部からの初期相談対応の自動化を図る。事業部からの相談は事実確認の情報が不足しているケースもあるが、AIが案件を分析して不足している質問項目や確認事項の下書きを自動生成することで、法務担当者の確認作業の効率化を目指すという。

 さらに、生成AI(GeminiやClaudeなど)を用いて修正履歴付きの契約書ファイルを出力させたり、官公庁の膨大なガイドラインを読み込ませて法的リスクを抽出させたり、海外のSaaS利用規約をディープリサーチさせるなど、実務のさまざまなプロセスにAIを組み込んでいる。

 吉田氏は「著作権や判断根拠の妥当性といった課題はあるものの、法改正の動向を見据えながら活用を進めることが不可欠だ」と語り、テクノロジーを柔軟に取り入れる次世代の法務像を示した。

経営層を即決させる端的なリスク伝達術

 法務パーソンやバックオフィスマネージャーにとっての最大の価値発揮どころであり、同時に最大の難所となるのが「経営層に対するリスク報告」である。限られた時間の中で役員の信頼を獲得し、迅速な経営判断を引き出すためには何が必要なのだろうか。

 吉田氏は、前職でM&Aプロジェクトやトラブル対応で経営層へ報告した際、上司から叩き込まれた2つの厳しいフィードバックを明かした。それは「テキストが長くて読まれない」ことと、「今それを言う必要があったのか(伝えるべきポイントがずれている)」という指摘である。

「テキストが長くなるのは、自分の中で何を伝えなければならないかが整理できておらず、相手に取ってほしいアクションが明確になっていない証拠です」(吉田氏)

 相手が移動中なのか会議中なのかというシチュエーションを見極め、結論から伝える「PREP法(Point:結論、Reason:理由、Example:具体例、Point:結論の順で構成する伝達手法)」を徹底。箇条書きを活用して端的に報告するよう改善したところ、経営陣からの追加質問(更問い)が減り、その場で意思決定を得られるようになったという。

 これに対し、ベンチャー企業で経営陣と距離が近い飯田氏は、対照的なアプローチをとっている。同社のような規模感では、法務側で下手に情報を要約・翻訳してしまうと、判断に必要な重要データが削ぎ落とされ、経営陣から「ノイズだ」と指摘された過去があるためだ。

「勝手に松竹梅の選択肢を用意したり要約したりせず、今社内で何が起きていて、何が問題なのかを事実のままストレートに伝えきることを大切にしています」(飯田氏)

 アプローチは異なるものの、両者が口を揃えて強調した鉄則が「悪いことほど早く伝える」という点だ。「法的な判断は現在調査中」という前提を置きつつも、事実関係と現段階での仮説を「速報」としていち早くインプットする。この速報と確報の使い分けこそが、経営の選択肢を狭めず、法務への信頼残高を高める極意なのである。

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妥協せず歩み寄る「問題vs我々」の思考

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この記事の著者

大久保 遥(Biz/Zine編集部)(オオクボ ハルカ)

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