2026年9月10日に開催された「MNTSQ Meeting 2026」。本記事では、基調講演「AI時代の法務とは何か─今、求められる価値の再定義─」の模様をお届けする。西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 執行パートナーの中山龍太郎氏と、日立製作所 代表執行役 執行役常務 CLOの松村祐土氏が登壇。定型業務がAIに代替される時代に、人間に求められる「センス」と「責任」とは何か。法務担当者のみならず、事業スピードとガバナンスの両立を目指す経営層・新規事業担当者にとって必読の対談である。
正解の先を選ぶ──AI時代に問われる法務の「センス」
生成AIの進化により、法務業務のあり方は根本的な転換点を迎えている。契約書のレビューや法令調査といった定型業務の自動化が進む中、法務には単なるリスクの指摘にとどまらず、事業成長を後押しする上流の意思決定への関与が求められている。
テクノロジーが実務の前提を一変させていく今、法務部門は自らの存在価値をいかに再定義すべきなのか。
この問題提起を受け、基調講演では外部法律事務所と企業内法務(インハウス)のトップランナー2人による対談が行われた。登壇した西村あさひ法律事務所の中山龍太郎氏と日立製作所の松村祐土氏は、大学の同期であり、かつては競合する大手法律事務所の執行パートナー同士として法務の未来を議論し合ってきた間柄である。
セッションの冒頭、中山氏は経営学者・楠木建氏が指摘する「センスの重要性」を引き合いに出し、スキルとセンスの違いを提示した。
スキルが「白か黒か(正誤)」を見分ける能力であるのに対し、センスとは「正しいもの同士の中からどちらが良いか」を選び取る判断力だという。
「これまでの法務の世界は、法令に従っているかを分析し、契約文言に正確に落とし込むという高度な『スキル』の世界でした。しかし、分析や定型業務をAIが代替する時代において、法務部門や弁護士に残る真の価値は、『複数の正解の中からどちらが良いか』を選び取る『センス』だと言われています」(中山氏)
AIに代替されない「コンテキストの理解」と「センス」
もちろん、AIが高度な論理構成や調査能力を持つようになったとしても、法務のスキルが直ちに無用になるわけではない。
日立製作所で約1,000人規模の法務・コンプライアンス関連組織を率いる松村氏は、「人間の思考過程をAIに教え込み、ガバナンスとしてコントロールしていく責任がある」と指摘する。機械がエージェントとして業務を回していく中で、論理的なスキル自体はなくならないが、多くの部分は機械が担うため、それをどう検証し、伝えていくかがポイントになるというのだ。
さらに松村氏は、決して代替されない能力として対人コミュニケーションスキルの重要性を強調した。いくらAIが導き出した正しい論理構成であっても、それを裁判官や経営陣、交渉相手に納得させるには、「この人が言うなら信用しよう」という人間関係や信頼の基盤が不可欠だからだ。
外部弁護士の視点から中山氏もこの指摘に同調し、クライアントから選ばれる理由について次のように語る。
「我々が大事にしているのは、会社の中のコンテキストを理解することです。自社のビジネス内容や企業カルチャー、そして『なぜこのタイミングでその課題が上がってきたのか』を総合的に理解し、経営者に意思決定の選択肢を示す力こそが求められています」(中山氏)
これを受けて松村氏は、法律の果たす本質的な役割について次のように語った。
「いわば、法律というのは『直感を正当化する道具』だと思っています。経営者がAかBかの決断を下す際、法的思考はその裏付けとなる。瞬時に課題を見抜くイシュースポッティング能力や決断力、すなわち『センス』こそが、AIに代替されにくい人間の価値なのです」(松村氏)
では、法的正論を超えてビジネスを前進させる「センス」とは、具体的にどのような状況で発揮されるのか。議論は、文化や価値観の異なる相手とディール(取引)をまとめるグローバルビジネスの現場へと展開していく。
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