戦略と現場を人・組織につなぐ「HRBP」──パナソニックグループが挑む事業に寄与する「組織開発」とは
ゲスト:パナソニック ホールディングス株式会社 戸島奈央氏、穂積慎一氏
「戦略を描いても組織や現場がついてこない」「事業変革のスピードに人材の配置や育成が追いつかない」──激変するグローバル市場において、多くの日本企業が抱えるこの構造的な課題。この壁を突破し、事業戦略と人・組織を直結させる存在として不可欠となっているのが「HRBP(Human Resource Business Partner)」だ。創業以来、手厚い人材育成や強固な事業部人事の伝統を誇ってきたパナソニックグループは、2022年の「事業会社制」への移行にともない、人事機能の抜本的な再構築を進めている。伝統的な「制度運用や課題解決」を中心とした人事から、事業責任者のパートナーとして戦略実行を直接支援する「HRBP」への進化において、同社は何に直面し、いかに改革を推進しているのか。本記事では、『HRBP──戦略実行を支援する人事』(英治出版)の著者であり、経営ケース研究所 所長の加藤雅則氏が、パナソニック ホールディングスの穂積慎一氏と戸島奈央氏の2名にインタビュー。“現場叩き上げ”のキャリアとスタートアップなどの外部知見も吸収した“出戻りキャリア”が交差する対話を通じて、同社が定義する「人事の4類型」、HRBPに求められるマインドセット、そして「事業を勝たせる組織デザイン」の実践論に迫る。
現場の修羅場と外部視点が織りなす人事リーダーの原体験
加藤雅則氏(以下、加藤):パナソニックにおけるHRBPや人事機能の進化について伺う前に、まずはご自身がこれまで歩んでこられたキャリアと、現在担われているミッションについてお聞かせいただけますか。
穂積慎一氏(以下、穂積):私は1993年に当時の松下電器産業に入社し、一貫して人事のキャリアを歩んできました。最初の8年間は営業部門の現場人事として実務の基礎を培い、2001年からの北米研修ではタレントマネジメントや現地の人事手法を学びました。
キャリアの大きな転機となったのは、2004年から約9年間担当したAVCネットワークスでのビデオ・オーディオ等の事業部人事です。ここでは計3回の深刻な構造改革を経験しました。工場の閉鎖や異動・退職にともない、最後まで社員の方々と毎週膝を突き合わせて対話を重ねた泥臭い経験は、私にとって人事の原点であり、「現場のリアリティ」を叩き込まれた時期でした。
その後、コーポレートで役割等級制度への移行やタレントマネジメント施策の推進に携わり、アプライアンス社コールドチェーン(業務用冷凍冷蔵設備)事業部人事部長、海外マーケティング本部、組織・人材開発センター(グループ研修所)などを経て、現在は総務センター所長 兼 セーフティ・セキュリティ部 部長を務めております。
1993年、松下電器産業に入社。営業部門の現場人事を皮切りに北米研修、AVCネットワークスでの事業部人事(計3回の構造改革を担当)を経験。コーポレート戦略本部にて役割等級制度への移行やタレントマネジメント施策を推進。アプライアンス社コールドチェーン事業部人事部長、海外マーケティング本部、組織・人材開発センターなどを歴任し現職。
加藤:修羅場の現場と本社制度設計の両方を経験されてきたのですね。戸島さんはいかがでしょうか。
戸島奈央氏(以下、戸島):私も新卒で入社し、最初に配属されたのがビデオ・オーディオの事業部でした。新入社員ながら労務・教育担当として現場の課題を聞くことからキャリアをスタートしました。
その後、「もっと事業の構造そのものを学びたい」という強い思いからデジタルカメラ(LUMIX)の事業企画部門へ手を挙げ、中期計画や海外展開などに携わりました。さらに国内マーケティング部門でテレビなどの生産・販売・在庫管理(PSI)を経験した後、会社の留学制度でスペイン・バルセロナのビジネススクール(ESADE)へ留学し、MBAを取得しました。
帰国後、自分の軸である「人と組織」に立ち戻り、一度会社を退職してスタートアップの世界に飛び込みました。5年間で3社のスタートアップで管理部長やVP of Corporateなどコーポレート全般を統括し、最後の会社が大手企業に買収されるタイミングで、縁があって2024年1月にパナソニックグループへ復職いたしました。幹部開発(サクセッションプラン)を担当したのち、現在はパナソニックホールディングスの戦略人事部 人事機能企画室長としてグループ全体の人事戦略に携わっています。
新卒で松下電器産業に入社。AVCネットワークス社にて労務・教育を担当後、デジタルカメラ事業の事業企画や国内マーケティング部門のPSIに従事。ESADE Business School(バルセロナ)にてMBAを取得。帰国後、スタートアップ3社にてコーポレート統括や人事責任者を歴任。2024年1月に復職し、幹部開発を経て現職。
現場経験の「n=1」を越え、戦略と現場のリアルをつなぐ
加藤:経理の世界では「新人はまず工場の経理に張り付かせる」という育成が以前は定番だったようですが、パナソニックの人事においても事業部人事からスタートするのが標準的なコースなのでしょうか。
戸島:事業部現場からスタートするケースは多いですが、現在は人事のタイプを整理しており、制度設計(CoE:Center of Excellence)やデータアナリティクス(DAE:Data Analytics Expert)などの専門部署へ最初から配属されるケースも含め、多様なキャリアコースが存在します。
加藤:ありがとうございます。構造改革のような生々しい現場を泥臭く経験したからこそ得られるリアリティは、人事制度を作る上でも大きな意味を持つように感じます。
穂積:おっしゃるとおりです。不安や不満の気持ちをもって来られる社員の方と毎週面談を重ね、一人ひとりの人生と向き合った経験があるからこそ、制度設計の際に「人がどう動くか」というリアリティを持てるようになりました。
ただ、一方で注意しなければならないのは、人事担当者が過去の自分の僅かな経験(n=1)にとらわれて全体を語ってしまう危険性です。「自分のいた事業部がこうだったから」という過去の成功体験や昔の感覚で全社の制度を作ってしまうと、多様な事業を抱えるグループ全体に歪みが生じます。現場の生々しいリアルを知りつつも、それに固執せず、まっさらな視点や外部の知見を柔軟に取り入れる姿勢が不可欠だと感じています。
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