専任2名で運営。ANA発の新規事業「ANA Study Fly」の現在地
──まず、これまでのキャリアについて教えてください。
渡海朝子氏(以下、渡海):JALスカイサービスで空港ハンドリング業務を経験した後、全日本空輸に転職し、20年以上客室乗務員として働きました。2022年に新規事業プログラム「Da Vinci Camp」を通じて「ANA Study Fly」を起案したところ、第1期生に選ばれて未来創造室に異動となり、現在は同事業の運営に専念しています。
──「ANA Study Fly」とは、どのようなサービスでしょうか。
渡海:社員が講師となってスキルを教える、スキルシェア・タレントマネジメント事業です。英語やヨガ、手話など、約200講座を開講しています。
当初は個人向けのオンラインスキルシェアとして始めましたが、2024年にはお客様の要望を受けて法人向けにも展開するようになりました。その後、共創型研修やコミュニティ活性化、観光支援など、toBの比重が高まっています。
──講師は客室乗務員が中心なのですか。
渡海:立ち上げ時は客室センターの社員を中心に声をかけていましたが、今ではパイロットや整備士など他の職種にも広がっています。他にも、ANAウイングスやエアージャパンなど、グループ各社の客室乗務員も参加し始めています。
──現段階での事業体制と成果を教えてください。
渡海:運営は私を含め2人が専任で担っています。少人数体制ながら、事業提案コンテストへ参加したり、各種メディアでご紹介や掲載いただいたりしたおかげで、安定的に契約を獲得できており、2025年上期だけで約20件の成約がありました。
“眠れるスキル”の可能性に気づき、「経営陣への手紙」感覚で起案
──「ANA Study Fly」を始めた経緯は何だったのでしょうか。
渡海:コロナ禍で自分自身のキャリアに不安を抱いたのがきっかけです。
コロナ禍で突然フライトがなくなったとき、最初の1、2ヵ月は「子育てと仕事の両立から解放されてゆっくりできる」と軽く考えていたのですが、3ヵ月目に入るとさすがに心配になりました。そこで、“人生全体”を見据えたキャリア設計が必要だと考え、キャリアコンサルタントの資格を取得しました。客室乗務員のような専門職は、「社内のキャリアをどう磨くか」に意識が偏りがちです。しかし、その視点に留まり続けるのは、自分にとっても指導する後輩たちにとっても良くないと考え、キャリアについて体系的に学ぼうと考えたんです。
──それがどのように新規事業の立ち上げにつながったのですか。
渡海:人生100年時代といわれるこれからの時代には、スキルの多角化やマルチキャリアが求められると理解したときに、「周囲の社員たちは様々な“眠れるスキル”を持っている」とふと思いました。たとえば、客室センターの社員たちは、ステイ先でも帰国後も習い事や勉強に励み、それをお客様に喜んでもらうために活かしています。ただ、“空の上”という活躍の場がなくなったことでそのスキルが活かせていないとしたら、お客様、本人、会社、三方にとってもったいないなと思ったんです。
その“眠れるスキル”の可能性を実感したのが、コロナ禍での社員出向でした。当初は「PCスキルもないのに役に立つのか」と悩んでいた社員も、実際に他社や自治体に行くと高く評価され、「戻ってほしくない」と言われるほどになりました。それを見て、「社員たちのホスピタリティやコミュニケーション能力、人間力を必要としている場はたくさんある」と改めて実感しました。
そんなときに社内提案制度「Da Vinci Camp」が始まり、「社員たちの持つ“眠れるスキル”に気づいてほしい」という思いを込めて応募したのがスキルシェア・タレントマネジメント事業「ANA Study Fly」の始まりでした。新規事業や提案制度の仕組みはあまり理解しておらず、どちらかというと経営陣に手紙を書いて投書するような感覚でしたが、運良く一次選考を通過しました。
