「経営戦略や事業計画を描いても現場の実行力が追いつかない」「事業部ごとのサイロ化(縦割り)によって全社的なシナジーを生み出せない」──多くのコングロマリット企業が抱える構造的な課題に対し、日本電気(以下、NEC)は大きな舵を切った。2030年に向けた「AIネイティブカンパニー」の実現を見据え、事業部門の大くくり化と「部門経営」を推進。その核として、事業戦略を実行に移す「HRBP(Human Resource Business Partner)」と「FP&A(Financial Planning & Analysis)」をひとつの経営チームとして機能させる改革を進めている。本記事では、『HRBP──戦略実行を支援する人事』(英治出版)の著者であり、経営ケース研究所 所長の加藤雅則氏が、NECの「BluStellar(ブルーステラ)」事業を牽引する渡辺健介氏、同社のHRBP機能を支える阿部立禎氏、植田温子氏の3名にインタビューした様子をお届けする。
事業とコーポレートをつなぐキーマンのキャリアと役割
加藤雅則氏(以下、加藤):本日はNECにおけるHRBPの実践と、事業部門とFP&Aとの連携について深くお聞きしたいと思います。まずは、皆様のキャリアと現在担われているミッション、それぞれの関係性についてお教えいただけますか。
渡辺健介氏(以下、渡辺):私は元々ビジネス(事業)側の人間です。NEC入社後は流通サービス事業部門で営業や営業組織のマネジメントを行っていました。転機となったのは2022年、ピープル&カルチャー部門のCoE(専門特化組織)機能内に設立された「カルチャー変革統括部」の統括部長に就任したことです。事業側から人事領域へ飛び込み、NEC Wayの浸透やエンゲージメント向上、ジョブ型人材マネジメントへの転換を推進しました。
探り探りの推進を経て、2025年、現在のBluStellar事業推進部門へ異動しました。2024年に立ち上げた価値創造モデル「BluStellar」の新しいビジネスモデル、テクノロジー、組織・人材作りを自らビジネスとして牽引するとともに、自組織の変革事例を全社へレバレッジさせる立場におります。
阿部立禎氏(以下、阿部):私は新卒で国内の重工メーカーに入社し、主に人事領域で国内外のHR方針の策定や組織再編、M&Aなどを担当してきました。ドイツのSiemens社との合弁会社におけるHRBPや海外拠点勤務を経験の上、外資系認証機関でのHRマネージャーを経て、2023年にNECへ入社いたしました。
現在はBluStellar事業推進部門をはじめとする複数の部門を担当するHRBPの統括を担っております。HRBPの役割としては、単なる個別的人事施策ではなく、人材ポートフォリオの策定、組織設計、キーポジションのサクセッションプランニング、リスキリング、カルチャー変革などを「Playbook」などの事業課題から逆算してひとつのストーリーに束ね、経営戦略の実行を現場で実装・定着させるミッションを担っています。
植田温子氏(以下、植田):私は新卒でNECに入社して以来、一貫して人事キャリアを歩んできました。最も長かったのは「事業部人事」として担当組織に寄り添い、制度運用や個別の労務・配置相談対応を行う役割です。その後、HRBPが戦略業務に集中できるよう、制度運用・オペレーションに特化した「HRコンサルティング統括部」でディレクターを務めました。2025年度に同組織が発展的解消を遂げたタイミングで念願だったHRBPへチャレンジし、現在は阿部の下で、渡辺の属するBluStellar事業推進部門の担当HRBPを務めています。
「手続き型」から「戦略型」へ──NECにおけるHRBPの再定義
加藤:非常に興味深いキャリアの交差点ですね。NECでは従来の「事業部人事」から「HRBP」への進化をどのように定義し、組織体制を再構築してきたのでしょうか。
阿部:従来の一般的な事業部人事は、制度や施策の運用、各種手続きや現場からの相談対応など、事業部門に近い立場で人事機能を幅広く担ってきました。一方、個別施策の運用が中心となり、事業戦略や組織・人材の課題との結びつきが十分でない場合もありました。対して現在のHRBPは、事業の将来像を起点に組織・人材を考え、現場の意思決定や戦略実行のスピードと質を上げるための選択肢を提示・実行する「戦略パートナー」です。「手続きから戦略へ」のシフトだと捉えています。
現在の体制としては、全社共通の高度な専門制度を設計する「CoE(Center of Excellence)」、給与計算や人事手続きを集約し高度化・効率化を図る「SSC(シェアードサービスセンター)」、そして事業部門の経営リーダーと対話して組織・人材を強化する「HRBP(HRビジネスパートナー)」の3機能がそれぞれの専門性を活かして連携しています。
植田:かつてはHRBPと制度運用業務を担う「HRコンサルティング統括部」を分離していた時期もありました。当時はジョブ型人材マネジメントの導入時期であり、本施策の浸透・定着・ピープルマネージャー強化や、業務の標準化を進めることでより多くの定型的な業務をSSCへ移管する、という意味で、分離自体意味のあるものだったと思います。制度の基盤整備を終え、導入から「活用」のフェーズに入った2025年からは、戦略に特化しつつも実行まで一体となって運用できるよう、組織を再統合して「HRビジネスパートナー統括部」として再スタートを切っています。
渡辺:事業側から見ると、従来のHRBPは「事務局・人事窓口機能」という認識が強く、どこまで事業に踏み込んでもらっていいのか現場も掴めていませんでした。
しかし、本物のHRBPは事業を勝たせるための「戦略人事」です。BluStellarという新たな事業を推進するにあたり、阿部さんや植田さんには要員計画や組織カルチャー醸成、必要なスキルセットの定義まで一体となって入ってもらっています。HR領域だけでなく事業の数値状況も共有し、日常的に議論を戦わせる関係ができています。
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