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慶應・琴坂教授が語る、AI時代の経営戦略「10の視座」──なぜAI導入のみでは競争優位は生まれないか

早稲田大学ビジネススクール 入山・池上・澁谷ゼミ 共同特別招待授業レポート

栗原 茂(Biz/Zine編集部) [著] / 林 紗也 [写]

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 2026年10月9日、早稲田大学ビジネススクール(WBS)にて、入山章栄教授、池上重輔教授、澁谷覚教授の3ゼミ合同による特別招待授業が開催された。ゲストスピーカーとして登壇したのは、慶應義塾大学 総合政策学部 教授の琴坂将広氏。起業家としての経験、マッキンゼーでのコンサルティング実務、上場・非上場をあわせた豊富な取締役経験を持つ同氏が提示したのは、過去50年の経営戦略論を体系化した「10の視座」と、生成AI時代に企業が直面する最新の競争構造だ。今までにない不確実性の時代において、経営者やミドルマネージャー、経営企画などのコーポレート部門の担当者が取るべき新たなアクション指針を探る。

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今の強みを使いながら、次の強みをつくる──競争優位の変遷

「持続的な競争優位は、一時的な競争優位を連続的に創造するものとして捉えることができます」

 セッションの冒頭、琴坂教授は経営戦略における根幹の問いを提示した。

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慶應義塾大学 総合政策学部 教授 琴坂将広氏

 どれだけ優れた実績を持つ企業であっても、ある特定の強みや一つの事業基盤だけに頼り続けて勝ち続けることはできない。市場の構造変化や急速な技術革新に合わせて臨機応変に投資と撤退を決め、「今の強みを使う」ことと「次の強みをつくる」ことを同時に押し進める姿勢こそが、現代の経営戦略において勝ち続けるための不可欠な前提となる。

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資料提供:琴坂将広氏/クリックすると拡大します

 企業が目指すべきは、単一の優位性を固定化させることではない。まず「今の強みを使う」フェーズでは、顧客がなぜ自社を選んでいるのかという根拠(顧客が選んでいる理由)を正確に確かめ、既存事業の価値を最大限に収穫する。そして同時に、得られたリソースを元手に「資源配分を変える」判断を下し、事業の変化に合わせて投資と撤退のラインを見極める。その上で、「次の強みをつくる」フェーズとして、新しい用途や自社ケイパビリティの可能性を試し、社外との広範なパートナーシップを形成していく。この一連の動的なループ(連続的な遷移)を描き続けることこそが、持続的優位の本質なのである。

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資料提供:琴坂将広氏/クリックすると拡大します

 琴坂教授は、著書『経営戦略の進化〈理論編〉』(東洋経済新報社)や『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年10月号』(ダイヤモンド社、以下DHBR)での特集2「経営戦略はどこから来て、どこへ向かうのか」で示してきた経営戦略の進化を「10の視座」として整理している。

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資料提供:琴坂将広氏/クリックすると拡大します

 この一連の活動の背景には、起業家としての泥臭い現場体験から、マッキンゼーにおける大企業の戦略策定、さらにはメルカリやソニーグループ関連会社など多数の企業で社外取締役を務めてきた豊富な実践知がある。ミクロ(スタートアップ)とマクロ(多国籍企業)の双方を見尽くしてきた同氏。だからこそ、理論と現場の乖離を埋める体系化が強く求められていて、特に生成AIが台頭する現代においては、「AIを他社と同じように使っても、自社に残る固有の強みとは一体何か」という根源的な問いに向き合うことが求められていると感じたのだという。

クラシックな経営戦略は「賞味期限切れ」ではなく「義務教育」

 琴坂教授によると、視座の1から6までは過去半世紀の間に構築・定着してきた「経営の基礎文法」であり、決して賞味期限が切れた過去の遺物ではない。むしろ、あらゆる実務家が共通言語として使いこなすべき民主化された定石ツールである。

 具体的には、経営の基礎として以下の6つの視座が整理されている。

 視座1〜3は、SWOT(内外の状況を「強み、弱み、機会、脅威」で捉える)、アンゾフのマトリクス(製品と市場の軸から「市場浸透、製品開発、市場開発、多角化」の成長方向を決める)、BCGのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(「スター、問題児、金のなる木、負け犬」で事業間のキャッシュと資源配分を決める)といった、伝統的なフレームワークが該当する。これらは「中計の前提共有」「予算前の方向性決定」「事業ポートフォリオ検討」の道具として定着してきた。

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資料提供:琴坂将広氏/クリックすると拡大します

 また視座4〜6への進化を辿ると、「どこで競争するか(外部環境分析:ポーターのファイブフォースなど)」という問いから、「自社に何があるか(内部環境分析:バーニーの資源ベースの戦略論)」へ、さらに「強みをどうつくり直すか(知識と能力の動態:野中の暗黙知・形式知モデルやティスのダイナミック・ケイパビリティ)」へと、研究の問いが前の視座の残した課題を掘り下げる形で発展してきたことがわかる。

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資料提供:琴坂将広氏/クリックすると拡大します

 以下の実証研究が示すように、企業の業績差を説明する要因は「事業固有の要因」が全期間で最も大きいものの、「企業全体(親会社)の要因」は2000年代以降高まりを見せ、「産業要因」の影響度は時代とともに低下しながらも残存している。つまり、外部環境と内部環境の双方を継続的に調べ、時間とともに自社の見立てを更新し続けることが不可欠なのである。

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資料提供:琴坂将広氏/クリックすると拡大します

 学術パラダイムの進化に従い、経営戦略が扱う範囲は単なる「分析(環境と自社の強みを把握する)」から「判断(優先順位を決め何を選び何を諦めるか)」、精神的・組織的な「行動(判断を組織の仕事として動かす)」へと大きく拡大してきた。分析の精度を高めることだけでなく、適切な「判断」と現場での「行動」が生まれるプロセスそのものを問う時代へとシフトしている。

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資料提供:琴坂将広氏/クリックすると拡大します

 これら1〜6の定石を踏まえた上で、現代の経営者はさらにその先にある「4つの新しい問い(視座7〜10:実践・多層的境界・非市場・アルゴリズム)」へ足を踏み出さなければならない。

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【実践と行動】会議や資料の「枠組み」が組織の意思決定を変える

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栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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