妥協せず歩み寄る「問題vs我々」の思考
リスク回避を最優先したい法務と、事業成長や売り上げ拡大を急ぐ事業部。両者のミッションの違いから生じる意見の対立は、あらゆる企業で発生する根深い課題である。この衝突をどのように回避し、建設的な議論へ昇華させるべきか。
飯田氏は、当事者間で議論が平行線をたどった場合、決定権を持つ役員を巻き込んで期待値を合わせに行くという。その際、同社のコーポレート管掌役員から学んだ「問題vs我々」という思考フレームを強く意識しているそうだ。
「『法務対事業部』という人や部署同士の対立構造にしてしまうのではなく、『目の前にある共通の問題に対して、我々チームでどう解決するか』という構図に持ち込むことが重要です。このスタンスさえ共有できていれば、意見が食い違っても悪い方向には進みません」(飯田氏)
対立の軸を「人間関係」から「共通課題」へと意図的にズラす手法である。
吉田氏もこの姿勢に強く同意しつつ、自身の若手時代の失敗談を明かした。当時の吉田氏は「法務の正論を強硬に主張する時期」と「事業部に圧倒的に寄り添う時期」の両極端を試し、結果として最も失敗だったのが「間を取る(安易に妥協する)」ことだったと振り返る。
「守るべき権利や防ぐべき法令違反があるならば、法務としての見解は明確に維持し、ストップをかけるべきです。期待値のすり合わせとは、妥協点を探る作業ではありません。法務としてのスタンスは崩さず、事業部の意向をくみ取った上で『では施策内容やスキーム自体をどう変更できるか』をともに考えることこそが真の歩み寄りです」(吉田氏)
専門家としての一貫した軸を保ちながら対案を提示する姿勢こそが、経営層や事業部からの揺るぎない信頼を勝ち取る道なのだ。
属人化を排しサステナブルな法務組織へ
ビジネス環境の変化が激しさを増す中、法務部門が長期的に価値を提供し続けるためには、特定個人のスキルや根性に依存しないサステナブル(持続可能)な組織基盤の構築が急務となる。

マネーフォワードでは、Slackを用いた申請ワークフローの共通化やタスク管理ツールへの自動連携によって業務の可視化と属人化の排除を徹底している。さらに、定期的な勉強会の開催や専門の電子書籍サービスの導入により、リモート環境下でも高度な法務ナレッジへ平等にアクセスできる環境を整えている。
一方、ひとり法務を務める飯田氏にとって、サステナブルな運営とはまさに「BCP:事業継続計画」そのものであった。長期休業に備え、外部の弁護士が意図を理解できるレベルで自身の判断基準を完全にドキュメント化したほか、「個別契約書ではなく利用規約の改定で済ませる」など、法務でしか対応できないボール自体を減らし、日頃から業務をスケールダウンさせておく設計を敢行したという。これは規模を問わず、すべてのバックオフィス組織に通じる業務整理の好例である。

セッションの締めくくりとして、登壇者2人から次世代の法務パーソンやリーダー層に向けた実践的なエールが贈られた。
「明日からできる最初のステップとして、経営陣と直接連絡を取れる範囲を棚卸ししてみてください。やりたい仕事のために誰と話せるようになるべきか、自分に何が足りないかを考える良いきっかけになります」(飯田氏)
「『ご自身が法務の最終責任者として判断するなら、どのように考え、どのように伝えるのか』を常に突き詰めてほしい。その覚悟を持って事案に向き合うことが、成長への一番の近道です」(吉田氏)
専門性を武器にしながらも事業部に寄り添い、経営の意図を汲んで組織を動かす「伝え方の流儀」は、これからの時代を生き抜くすべての法務担当者にとって大きな道標となるはずだ。



