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人工知能社会論からの考察

AI時代に「人文社会科学」は不要なのか?

第1部:人工知能社会論とは何か?(第1回)

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 連載『人工知能社会論からの考察』を今回から開始する。本連載は筆者井上とAI研究者である理化学研究所の高橋恒一氏とで立ち上げた「人工知能社会論研究会」での、研究会メンバーとの対話で得た知見を集約した内容をお届けする。連載中も、研究会での知見は更新しながら「体系化」を心掛けてお届けする予定だ。イントロとして、私が2回にわたり「人工知能社会論」とは何か、その重要性などを考察する。  第1回である今回は、現在のAIに関しての潮流を俯瞰し、AIと人文社会科学との関係性などを中心に、筆者の見解をお示しする。

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21世紀はAIの世紀になる

 私は、大学の経済学部の教員で、大教室では標準的なマクロ経済学やミクロ経済学などの科目を担当している。しかし、少人数の授業では3年くらい前から、「AIは雇用を奪うか?」「AIは経済の仕組みをどう変えるか?」といったテーマを扱うことがある。最近、学生から以下のような相談を受けた。

先生! そんなに人工知能が爆発的に進歩していくんだったら、僕たち文系の人間は何をして生きていけばいいんですか?

 「人工知能」(Artificial Inteligence, AI) というのは、コンピュータに知的な作業をさせる技術のことである。身近なところでは、iPhoneなどで動作する音声操作アプリの「Siri」やGoogle などの検索エンジンも広い意味ではAI である。

 3年前にはさして注目されていなかったAIにまつわる話題が、昨年くらいからは新聞や雑誌、ネットで盛んに取り上げられるようになった。今年の3月には、囲碁AIの「アルファ碁」が、世界最強の棋士である韓国の李世ドル九段を打ち負かしたというニュースが世を沸かしている。AIが囲碁で人間のチャンピオンを破ったこと自体に、私は何の感慨も抱かなかった。そもそも、人間よりもコンピュータの方がゲーム(正確には「完全情報ゲーム」)に向いているからだ。ただ、その時期があまりにも早いことには驚いた。AIが囲碁で人間に勝つまでに10年は掛かると言われていたが、実際にはたった1年で成し遂げられた。それは、技術進歩を楽観的に見ているAI 研究者の予想すらも大きく覆すものだった。

 今後のAIの発達は、私たちの社会に途方もない影響を及ぼすだろう。そういう意味で、21世紀は間違いなくAIの世紀になる。トヨタやホンダなどは、東京オリンピックが開かれる2020年を目処に、AIが人間に代わって操縦するセルフドライビングカー(自動運転車)の実現を目指している。いずれは、セルフドライビングカーが、自動車の主流になるだろう。

 自動運転車と同等か、それ以上に注目されるのが「自動翻訳」であろう。しかし、そこには「言語の壁」があると言われている。コンピュータが言葉の意味を理解するのは、今のところ困難である。Siriにしても人間のように言葉を理解しているのではなく、質問や要望に対する応答としてふさわしいものを統計的に選択し返しているだけである。

 しかし、AIがそのような「言語の壁」を乗り越える日はそう遠くないかもしれない。AI研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授は、2025年頃にはコンピュータが意味をちゃんと理解して、自動通訳や自動翻訳を行うことができるようになると予想している。松尾教授は、「ビフォー自動翻訳」「アフター自動翻訳」という言い方をする。2025年以降の「アフター自動翻訳」の世界では、日本企業の海外進出も海外企業の日本進出も今よりも格段に容易になり、真のグローバリズムが訪れるという。あるいはまた、英語を学ぶ必要がなくなるかもしれない。英語が大学の必修科目からはずれ、一部の物好きな学生が選択するマイナーな科目になり下がるということも起こり得る。

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この記事の著者

井上 智洋(イノウエ トモヒロ)

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