難民危機下のドイツでクリエイティブリーダーシップを発揮するKAOSPILOT卒業生、アン・ケア・リシャットのストーリー
2016年5月2日。ベルリンのシンボルであるブランデンブルク門に、赤色の服を着た人達が集まった。その多くはドイツに流れ込んだシリアの難民だ。アレッポの平和を祈る気持ちが様々な形で表現された。そこで私が出会ったシリア出身の20歳の青年、アマールは、シリアからトルコへ、そしてギリシャ、マケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリアを通り、ベルリンにたどり着いた。同じ都市に3日以上滞在できないという制限の中、国境沿いに歩き続けて22日間でたどり着いたという。
危機的な状況にも関わらず、彼はベルリンに至る旅路について淡々と語り、こう言う。
まず母国のシリアではこんなデモは危険すぎて参加できない。でもベルリンはそれができる街。ベルリンでは様々な人が助けてくれるんだ。
ドイツには2015年だけで約100万人を超える難民が流入した。労働力不足や高齢化に直面するドイツ企業にとっては、新たな労働力を確保する好機だ。しかし、母国を離れて新しい国での文化や生活に実際に統合する試みは、簡単なことではない。
ドイツ連邦雇用庁によると、全体の失業率は下がり続ける一方で、中東やアフリカから流入した移民・難民の生産年齢層の失業率は2015年9月に42.1%に達した。これは前年同月の4.4%を著しく上回る水準だ。連邦雇用庁は約10万人の移民・難民を対象に語学コースを開設する予定で、言語の壁は低くなるだろう。一方で、学歴や職歴を証明するものを持たない難民もいる。労働市場の需要と供給とニーズに対しては、一体何ができるのだろうか。
こんな状況を灯火で導くような女性がいる。彼女の名前は、アン・ケア・リシャット(以下、アン)。KAOSPILOT(カオスパイロット)の卒業生で、ベルリンのReDI School of digital integrationの創始者である。この学校はNPO組織として2016年2月に設立されたばかりだ。設立のきっかけとなったのは、アンとイラク出身のモハマドさんとの出会いにあった。
彼は3年間バグダッド大学でコンピューターサイエンスを学んでいたが、ドイツに来てからその教育を受け続けることができなくなってしまった。それもラップトップを持っていないという理由で。一方で、現在ドイツのIT業界は43,000もの仕事において労働力不足だとされている。すぐそこにITスキルが必要とされている状況があるにも関わらず、モハマドのような意欲のある青年が学び続けることができないとは、どういうことか。