米国のイノベーションを牽引するのは誰か―意外な調査結果が示すこと
前回の記事で紹介した「クリエイティブリーダーシップ」は、自分と他人と結果をリードすることだと書いた。これは言い換えると、状況に応じて変化する自分、他人、結果の在り方を初めから寛容に受け入れるのがクリエイティブリーダーシップだ。このような寛容性を持つため、複雑性を理解する多角的な視点を持つことが、多様な背景を持った人々との協働をスムーズにする。世界の人々が共感できる人間の本質や、向かうべき未来を理解するためには、こういったマインドセットを持つことが不可欠である。
先日、ITIF(Information Technology & Innovation Foundation)が発表した米国におけるイノベーターの人口統計学の調査結果が出た。米国のイノベーションを牽引するのは誰かを調べた結果だ。ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、スティーブ・ジョブズの顔がまず思い浮かぶ。しかし統計を読むと、35.5%以上の米国のイノベーターは、海外出身者という結果がわかる。これらのイノベーターの出身地は、35.4%がヨーロッパで、その次がインド(21.5%)、そして最後に中国(17.1%)と多様だ。意外にも、米国には欧州やアジア出身のイノベーターが多いことに気づく。
最近のハーバードビジネスレビューにも多角的な視点を与える記事があった。同誌が実施した2015年の世界CEOベスト100だ。在任期間中の株主総利回り(TSR)と時価総額に、新しい指標を加えた。それは市場でのパフォーマンスだけでは読み取れない、リーダーシップの側面を評価するESG(環境、社会、ガバナンス)だ。その結果は、これから世界の人が共感するリーダー像を予感するものだと私は見ている。同誌の記事はこんな一節から始まる。
世界で最も優れたCEOは、それほど名の知れた人物ではない。実際に、ラース・レビアン・ソレンセンを一目見ただけで世界トップクラスの経営者とは思えないだろう。
一位に選ばれたのは、インタビューにカジュアルな出で立ちで現れ、物腰の柔らかさを印象付けたラースだった。デンマークの製薬企業Novo Nordisk社のCEOだ。一位に選ばれた主な理由として、同社が社会問題や環境問題に熱心に取り組んできたことを挙げた。開発途上国の消費者にインスリンを大幅に値引きする販売戦略を決定するなど、社会的責任を果たすことが、長期的に企業価値を最大化するという考えがあった。
ラースは、自身のリーダーシップスタイルを、「合意形成を重視する北欧スタイル」だと言う。デンマークでは、Novo Nordisk社以外にも合意形成を重視する企業は多い。例えば、世界一の玩具メーカーのLEGO社、同じく世界一の風力発電メーカーVESTAS社が代表的だ。人と対等な関係性を構築し、また企業活動で社会的責任を果たすことに意義を感じるリーダー達は、世界でも確実に増えているように、私は感じている。