共感を呼び、差別化を生む、ビジネスにおける「ストーリーデザイン」の価値
近年、海外のクリエイティブ・エージェンシーを中心に注目されている「ストーリーデザイン」。消費者に向けて、製品やサービス、そしてその企業のストーリーを伝えることで、さらなる共感を生み出し、より満足度の高い「ユーザー体験」を生み出すことを目的にしている。
2001年にドイツに設立された、デザインコンサルティングファーム「Storymaker」のマネージングパートナー ビヨルン・アイヒシュテッド氏は、自己紹介を織り交ぜながら自社が目指す、「ストーリーデザイン」の在り方について語った。
弊社は「トレンドは廃れてしまうが、オリジナルは残る」というコンセプトを掲げています。これは、コンテンツを使ったマーケティング戦略が当たり前になり、サービスの差別化が難しい市場背景において、企業・人・製品のオリジナルストーリーが今後ますます重要になっていくことを示唆しています。
Storymakerでストーリーを構築する人びとは、デザインを専門に学んできたというよりも、歴史学や人類学など、一見するとデザインに関係無いバックグラウンドを持つ人びとが多いという。多様な個性によって編成されたチームで、リサーチからプロジェクトの展開まで行う。
同氏は、企業でストーリーテリングを導入する際に気をつけるべき点として、物語のように起承転結の構成で「起」から始まり「結」で終わるのではなく、始まりと「今後の展望」という構成で考えるべきだという。なぜならば、企業や製品は物語のように終わってしまうのではなく、存続していくものであり、それ以降の展開が重要なためだ。
さらに、ストーリーデザインをする上で、必要な要素とその流れについて以下のように語った。
- 有力な要素の設定を行いストーリーを構築(登場人物・障壁・将来への展望など)
- より伝わりやすいものになるようにストーリーを磨く
- メディアなど用いて、ストーリーを広く展開していく
ストーリーは人、会社、製品の真髄の物語です。消費者と密に関わる製品、サービスこそストーリーを伝えることが重要になってくる。彼らにしっかりと届けるためにも、PRなどのさまざまな手法を用いてストーリーを伝える必要が有ります。
また、同氏はストーリーを構築する(ストーリーデザイン)上で気をつけるべきことに「出汁(だし)」を引き合いに説明した。「オーディエンスが消化できること。ストーリーは出汁と同様に、ユーザーが食べやすいように調理をする必要がある。顧客やメディアが話したくなるストーリーにしなければならない」と述べた。
また、大の日本好きと自負するビヨル氏は、日本のアニメ、ゲームやホラー映画などから、日本はストーリーテリングのポテンシャルは高いと分析。その一方で、課題もあるという。
ヨーロッパからみると、アジアでは韓国が製品やサービスの先端的な国という印象があり、日本は遅れていると考えられています。それは、日本の対外プロモーションが弱いからです。2010年に初めて訪日した際に、バンダイのプリクラやTOTOのウォシュレットなどおもしろい製品を見つけ驚きました。そうした独自の魅力がうまく国外には伝わっていないと感じます。
つまり、日本のストーリーテリングは、国内ではうまく体系化されている。その一方で、海外でのローカライズが、言語や異文化理解という障壁によりうまくいかない側面がある。
「日本の企業の多くは、海外に対するストーリーテリングに優れていません。しかし、日本にはその伝統があります。その“ねじれ”を解決するために、弊社がストーリーテリングの手法を活用していきたいと考えています」と語り、2020年オリンピックの東京開催に向けて、ストーリーテリングの主なエージェンシーになっていきたいとアピールした。