テクノロジーの「不可避」な進化、人の「ポジティブ」な未来の選択
ケヴィン・ケリーの新著『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』はもう手にしただろうか? 12の動詞からテクノロジーとカルチャーの過去、現在、そして未来を読み解く素晴らしい一冊だ。本稿は、廣田氏、松島氏による質問とそれに対するケヴィン・ケリーの回答を中心に構成。ケヴィン・ケリーの思想について、書籍とともに存分に触れてみてもらいたい。
左:廣田周作氏(cotas.jp 編集長 / 電通ビジネス・クリエーション・センター事業開発室)
右:松島倫明氏(NHK出版 放送・学芸図書編集部 編集長)
廣田(cotas.jp 編集長):
まずは原著のタイトル『The Inevitable(不可避)』について伺いたいと思っています。世の中で不可避なものとそうでないものについて、どのように捉えていますか?
ケヴィン:
私は、望むと望まざるによらずテクノロジーの到来は不可避だと考えています。例えば、インターネットというテクノロジーの到来は不可避です。しかし、そのインターネットがオープンなのか閉鎖的なのか、政府が管理するのか商業的なのかといった具体的な側面については不可避ではない。私たちはその具体的な側面を設計することで、テクノロジーをポジティブなものにも、そしてネガティブなものにも変えることができるのです。
松島(NHK出版 放送・学芸図書編集部 編集長):
新しいテクノロジーの到来が「不可避」の中で、人間はポジティブな未来を選択していかないといけないということですよね。私が以前翻訳書の編集を担当した、PayPal創業者にして投資家のピーター・ティールの有名な言葉で「空飛ぶ車が欲しかったのに、 手にしたのは140 文字だ」というものがあります。21世紀は車が空を飛ぶような未来だと思っていたのに、皆はスマホでツイートしているだけで、これは僕らが目指した未来なのか、という問いかけなんですけれども、ピーター・ティールは不死の夢を真面目に追いかけたり、火星への移住や海上都市をつくることに投資をしていたりと、大きな夢を持っている。テクノロジーがもたらす未来について、彼のように大きな夢やビジョンを描くような考え方と、あなたの考え方の違いについて教えてください。
ケヴィン:
まず、私は空飛ぶ車よりもツイッターのほうが素晴らしいイノベーションだと思っています。そして、前書『テクニウム』でも同時期に起こるイノベーションについて記述していますが、私たちのイノベーターに対する認識は間違っていると思うのです。
例えばエジソンやスティーブ・ジョブズがイノベーションを起こせなかったとしても、その翌週には違う人が全く同じものを創りあげていたと思います。条件が揃っている状態でイノベーションを起こしただけであり、彼らがテクノロジーの進化を操作している訳ではないのです。
でも、ビジョンを持つことはとても重要です。彼らによってテクノロジーの進化が早まることはなくても、テクノロジーはどういった形で存在するのが望ましいかを考えるきっかけを与えてくれる。ティム・バーナーズ・リーはインターネットをつくったわけではなく、インターネットのあるべき姿を作ったのです。それはインターネットをオープンにするという思想で、とても素晴らしいものだと思います。
松島:
ピーター・ティールやイーロン・マスクのように大きな野望を持っている人のアイデアと、避けられないテクノロジーの進化が合わさって、私たちは次のステージに向かっていくと。
ケヴィン・ケリー
ワーイアード創刊編集長。1952年生まれ。著述家、編集者。1984〜90年までスチュアート・ブラントと共に伝説の雑誌ホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年には雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、WSJなどで執筆するほか、WIRED誌の〈Senior Maverick〉も務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド)、『「複雑系」を超えて』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。